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来日前に予習しよう。イタリア人作家 カルミネ・アバーテの複層性の世界

投稿日:2017-11-15 更新日:

今年の11月23日から26日にかけて駐日欧州連合代表部、在日EU加盟国大使館・EUNIC-Japan(在日EU加盟国文化機関)の主催で開催されるヨーロッパ文芸フェスティバルに合わせて、現在イタリアで活躍中の作家、カルミネ・アバーテ氏が来日することが発表されました。

日本では、まだ知名度の高くない作家ですが、今回の記事ではカルミネ・アバーテ氏とその作品の紹介を通して、ぜひ多くの人にアバーテ氏の魅力を紹介したいと思います。

経歴

カルミネ・アバーテ氏は1954年にイタリア南部カラブリア州クロトーネの郊外にあるカルフィッツィという小さな村に生まれました。アバーテ氏の生まれたこの村は、異文化が混ざり合っているカラブリアのなかでも独特の歴史を持っています。

その村の起源は15世紀にまでさかのぼり、アドリア海を挟んで対岸にあるアルバニアから、オスマン帝国の侵攻を逃れてきたアルバニア人が移り住んできたことによって築かれました。以降、この村の共通語は古代アルバニア語に近いとされる少数言語アルバレシュ語であり、アバーテ氏も6歳までアルバレシュ語しか話さず、イタリア語は小学校ではじめて習ったそうです。

のちにバーリ大学の文学部に入学し、教員免許を取得、ドイツのハンブルクに移住してイタリア語教師となり、1984年にドイツ語で最初の短編集『かばんを閉めて、行け!』を発表しました。その後、イタリアに帰国しトレント県ベセネッロに居を構え、執筆活動を現在まで続けています。

イタリアでの本格的なデビュー作は1991年に発表された『円舞』でした。現在では、短編集と、ドイツにおけるカラブリア移民に関するマイケ・バーマンとの評論のほか、9つの長編小説を発表しており、2012年の9月1日に『風の丘』で第50回カンピエッロ賞を受賞。2016年には『待つ幸福』でストレーザ賞を受賞しています。

日本では

日本ではアバーテ氏の作品のうち4作が翻訳されています。栗原英俊氏の訳で『偉大なる時のモザイク』『帰郷の祭り』が、関口英子氏の訳で『風の丘』『ふたつの海のあいだで』が出版されています。

どの作品も2015年から今年にかけて翻訳されたものばかりで新しく、今後ますます作品が翻訳されることが期待されます。

作風について

1991年のイタリアでのデビューから現在まで、アバーテ氏は9つの長編小説を発表していますが、そのうちの多くはアバーテ氏の生まれ故郷をモデルにした架空のアルバレシュ共同体を舞台にしています。

アルバレシュという故郷を追われた民族をルーツに持ち、外国への出稼ぎばかりだった祖父や父を見て育ち、自身もハンブルグに働きに行くという経験をしたアバーテ氏にとって、移住や、土地と人との関係、家族の結びつきにまつわる問題は自身の生に差し迫った問題でした。こうした問題系を通して、彼の作品ではアルバレシュ共同体という文化的伝統の記憶を基盤に、移住して生きる痛みや、言語の衝突、家族の関係や記憶などが描かれています。

アルバレシュの共同体の一員として、カラブレーゼとして、イタリア人として、ドイツ移住者として、複数の層を生きてきたアバーテ氏の実体験に基づいて紡がれる物語は、まるでモザイクのように、多種多様な文化や言語や記憶の層が重なり合い、絡み合っているのが魅力と言えるでしょう。

また、アバーテ氏の文章はなめらかで簡潔ながら、彼独特の仕方でアルバレシュ語や、カラブリア方言が混ざりこんでいることにも注目です。文体そのものに興味がある方は、アバーテ氏の作品を原文で読んでみることもおすすめします。

カンピエッロ賞受賞作『風の丘』(原題:La collina del vento)

2012年の9月1日に「ストレーガ賞」と並び立つ文学賞である「カンピエッロ賞」を『風の丘』が受賞しました。この『風の丘』は、カラブリア州のスピッラーチェという架空の村に生きるアルクーリ一家の、一次世界大戦前から現代まで、4世代に及ぶ家族の営みの物語です。

「僕(リーノ)」の語りを軸に描かれていくのは、鉱山労働の傍ら「風の丘」ロッサルコの土地を買い足し、耕した曽祖父アルベルト、ファシストによって流刑に遭いつつも家族を守った祖父アルトゥーロ、才気に富んで誰よりも家族の土地を愛した父ミケランジェロなどなど。

父から子へと語り継がれる家族の物語は、語り継がれるうちにいつしかその土地、一族の歴史となっていき、わたしたち読者はその目撃者となるでしょう。

アルクーリ一家の姿は、美しすぎるがゆえに仲間から妬まれ阻害されるアルビノの白燕になぞらえられており、様々な困難に立ち向かう家族の毅然とした姿とその絆は読む人の心を揺さぶります。

ヨーロッパ文芸フェスティバルについて

カルミネ・アバーテ氏が来日し講演を行うのは11月23日から26日にかけてです。23日には、駐日欧州連合代表部にて、芥川賞作家で比較文学研究科の小野正嗣氏と対談を行い、24日にはゲーテ・インスティトゥートにて「複層性を生きる」というテーマについてドイツ語で語るという講演が用意されています。

移住というテーマのもと、多様性や越境性の中を生きる現代を代表する作家カルミネ・アバーテに日本で会えるまたとない機会です。ヨーロッパ文芸フェスティバルは予約制となっていますので、みなさんお早めにどうぞ。

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  • この記事を書いた人

編集者N

大学でイタリア文学を専攻。特に現代イタリア文学を中心に研究を行っていく予定。好きな街はヴェネツィア。

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