6月末、イタリア・コメディ映画の代表作『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』を渋谷・Bunkamuraで観てきました。「イタリアン・コメディの金字塔」とも呼ばれるこの映画は、全3部作のうち2作目にあたり、続編が今か今かと待たれる今日この頃。
この映画のあらすじや魅力について、丁寧に紹介したいと思います。
映画について
原題:Smetto Quando Voglio - Masterclass(日本語直訳:好きな時にやめる - 上級クラス)
公開年:イタリアは2017年、日本は2018年
作品の位置づけ:3部作のうちの2作目
ジャンル:クライム・コメディ
監督:シドニー・シビリア
キャスト:エドアルド・レオ、ルイジ・ロ・カーシオ、ステファノ・フレージ、グレタ・スカラーノ、ヴェレリア・ソラリーノ など
登場する場所:ローマ、チヴィタヴェッキア(イタリア)など
あらすじ
刑務所生活を送るピエトロ
冒頭は、刑務所に拘留された神経生物学者・ピエトロが、妊娠中の妻・ジュリアと面会するシーンから物語が動いていきます。神経生物学における世界的な権威であるピエトロは、2009年の欧州危機によって、大幅に研究費や給料を削られ、憂き目にあっていた教授。
彼は、前作で家族のために食器洗浄機を買うことを目指して、超高品質の合法ドラッグ(スマートドラッグ)を製造し、誘拐、殺人未遂罪などで服役中。ジュリアは毎回のように離婚話や子供の親権について話をするため、ピエトロはその度に面会を打ち切ろうと、あーでもないこーでもないとごまかして、事実を直視するのを先送りにします。
犯罪者集団が警察と手を組む!
そんなピエトロのもとに、1人の刑事がやってきます。パオラは薬物摘発の任に就いているローマ警察の刑事で、近年ローマで社会問題となっているスマートドラッグの摘発や違法化を目指して日々奮闘していたのです。
しかしスマートドラッグは合法であるが故に摘発や逮捕が難しく、また成分を分析して違法にしたところで、次々と誕生する新たなスマートドラッグに対応することは到底不可能で、いたちごっこのような状況が続いていました。
頭を抱えていたパオラは、超高品質なスマートドラッグを作っていたピエトロが、現在刑務所で服役していることを知り、非公式な捜査を持ちかけるため、彼のもとへやってきたのでした。
最初は渋るピエトロでしたが、その見返りは「過去の犯罪歴の抹消」と「刑務所からの釈放」というこれ以上ない条件。この提案を受けたピエトロは「過去に手を組んだ仲間6人を集めること」と「新たな仲間を3人加えること」を条件にそれを承諾。
晴れてここに、前作で活躍した天才教授7人と、国外で憂き目に合っていた新たな天才教授3人によるバンダ(Banda、ギャングの意味)が再結成されたのです!
順調に摘発を続ける!しかし...
『#いつだってやめられる』が4コマ映画になりました‼
10人の怒れる教授たちも可愛くなってます✨✨https://t.co/JGfdC8o2s0
— 『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』 (@itsuyame_10) 2018年5月8日
新たな仲間を加え、順調に任務を遂行していく彼ら。次々とスマートドラッグを分析し、摘発していくのですが、なかなかあるドラッグの正体を解明できない。それは巷ではソフォックス(SOPOX)と呼ばれ、どれだけ他のスマートドラッグを摘発しても、その分だけソフォックスの流通は増え続け、結局はいたちごっこの域を出ていなかったのです!
ソフォックスの分析を巡り、一度はばらばらになりかけるチーム。しかしピエトロは、妻・ジュリアとの何気ない痴話げんかの中で、偶然ソフォックスの精製方法に気づき、もう一度仲間とともに最後の摘発作戦を遂行しますが...。
この映画の魅力はどこにある?
1.教授たちのキャラが濃すぎる
この映画を面白くしている最大のポイントは、教授たちの個性でしょう。彼らはピエトロと同じように、各分野の世界的な権威・天才と称されながら、研究費削減などの憂き目にあって生活は苦しく、研究も立ち行かない状況に追い込まれた教授たち。
そして天才だからこそ、それぞれの主張やキャラがあまりにも強すぎて、話がまとまらないし、すぐ自分の研究分野に引きつけて話を進めようとするし、挙動や話し方まで個性が出過ぎているし、と本当にカオス。
それが分かりやすく表れているシーンの1つが、この動画のシーンです。
あるスマートドラッグを摘発するために、倉庫への侵入を試みる教授たち。1つのことをやるにしても「定義が曖昧だ」だの「車の鍵をかけたかどうか忘れた」だの、意味のないことを口論し続けて話がめちゃくちゃになっていきます(笑)なんとやかましい絡みでしょうか(笑)
ですが、こうした天才たちの頭脳こそが、物語を愉快かつ明快にしているのは間違いありません。
2.小ネタがじわじわくる
大笑いではなく小笑いを量産してくれるのが、ストーリー内にたくさん登場する小ネタです。刑務所内でピエトロと相部屋で、ベッドに座るとめちゃめちゃにキレてくる同居人や、雹から作物を守れるキャノン砲、さらにはナチスのヘルメットをつけたままジュリアの出産にかけつけるピエトロなど、シュールでニヤニヤさせてくれるようなシーンがたくさんあります。
こうした小ネタを挙げ続けていけばキリがないほどなので、是非ご自身の目で確かめてみてください。
3.舞台はローマ!
【ローマ大学キャンパス】
この映画の舞台は、イタリアの首都・ローマ!ローマに留学していた身としては、あらゆる場所が懐かしく感じられて、本当に楽しかったです。いつまでも完成しない地下鉄C線沿い、旧市街にあるトラヤヌスの浴場、ローマ・オスティエンセ駅、ローマ大学のキャンパス、トッレ・デッラ・アンジェラ、イタリア人民広場(俗称「四角いコロッセオ(Colosseo Quadrato)が一般的」)などが登場します。
ローマの中では少し位置取りが分かりにくいエリア(観光客は決して多くないエリア)で物語の大半が進んでいきますが、それこそがまた薬物摘発のリアリティを与えてくれています。
さらには、ローマ近郊の港町・チヴィタヴェッキアまで登場しました。チヴィタヴェッキアからコンテナがローマ・オスティエンセ駅まで輸送されていくまでのカーチェイス(?)やバトル、大ピンチなどの2,30分は、この映画のハイライトと言えるかもしれません。とにかくこの時間が一番笑いました。
【四角いコロッセオ】
また、登場人物の多くがローマ方言(正確にはローマのアクセント)で喋っていたので、そこにも勝手な親近感を感じてしまいました(笑)これはイタリア人と一緒に見たら、他の登場人物も含めた色々な話し方やアクセントの意味が理解できて、とっても面白いだろうなぁと思いを馳せました。
4.存在意義・やりがいを感じる教授たち
任務が終わりかけた時、大喜びで「これで終わりだ!」と喜んでいたのは、なんとピエトロだけ。他の教授は、どことない残念さを持っていました。それは「自分が社会のために何かをしている・役に立っている」というやりがいを感じていたから。
任務が終われば、家族が待っているピエトロとは違い、家族もいなければ仕事もない教授たち(中には精神病院に逆戻りになることを嘆く教授も!)。各分野の天才ともてはやされ、世界を動かすような研究をしていた教授たちにとっては、欧州危機以降の空白の数年間は、あまりにも辛く、生きた心地のしない時間だったのかもしれません。
「自分達がスマートドラッグを作った経験を活かしてスマートドラッグを摘発する」という、正攻法ではない社会への役立ち方なのかもしれませんが、それでも「役に立っている」という実感、生きている実感を、思い出すことができたのではないでしょうか。
5.3作目がめっちゃ気になるエンディング!
前述の通り、この映画は3部作で、時系列で物語が進行していきます。私は最初に「10人」を観てから「7人」を観ましたが、十分に内容を理解できました。物語の冒頭で、前作のおさらいを上手い感じでしてくれたので、問題ないと思います。
ですが、この「10人」のエンディング、つまり終わり方がめちゃくちゃ気になる!ピエトロが逮捕され、持ち物検査をされている時、事務員のふとした一言で、ソフォックスに関する重大な真実を発見したピエトロ!ここでソフォックスを精製していたグループの真の目的に気づき、「このままでは大変なことになる!」的な鬼気迫るピエトロの表情で映画は終了します。
それは、テロへの布石なのか、はたまた教授による社会への復讐なのか...。実はイタリアでは、3作目である「Smetto quando voglio - Ad honorem(日本語訳:いつだってやめられる - 名誉学位)」が、2017年既に公開されています!はやく日本語字幕付きバージョンが公開されるといいなと思います!
【Smetto quando voglio - Ad honorem 予告編】
さいごに
いかがでしたか?皆さんも「いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち」を映画館やネットストリーミングサービスなどで、是非鑑賞してみてくださいね!笑えること間違いなしです。