2016年8月のイタリア中部地震で甚大な被害を受けたアマトリチャーナ。被害の大部分は、建物の崩壊によって引き起こされたとされていますが、ここへきてその、建物は手抜き工事によって建てられたものなのではないか、という黒い疑惑が持ち上がっています。
この記事では、イタリアでの実際の報道をお伝えするとともに、「手抜き工事だ」と声をあげた建築技師の具体的な指摘を見てみたいと思います。
Repubblica紙の報道
驚愕の手抜き工事発覚
大手新聞Repubblica紙は、今回の地震によって倒壊した建物の一部において、「手抜き工事」がなされていた可能性があるという報道をしました。
私たちの一般的なイメージとして「石造りの古い建物」が多いために、このような悲惨な事態になってしまったというものがありますが、場合によっては一部人災も含まれていたとみて、検察が捜査に乗り出しています。
捜査対象は非常に多い
捜査対象は約120件に及び、その中でも2012年など、近年改修が行われた建物の修復に対して嫌疑が及んでいるようです。その中には、今回の地震で最大の被害を受けたアマトリーチェの学校なども含まれているというから驚きです。
学校は2012年に補助を受けて耐震補強工事を行ったばかりでしたが、崩壊してしまい、アマトリーチェでは疑念の声があがっていました。
問題にはあの黒い影も...?
地元検察のサイエバ検事は、レプブリカに対し、現場調査の結果、倒壊建物の一部は「節約のためにセメントより砂を多く使っていたとしか考えられない」と指摘しました。そして「これは事故ではない」と強調し、関係者の法的責任追及を視野に捜査を進める考えを示しました。
さらに一部報道では、建設業者がマフィアと繋がりがあったとの報道があり、真相が待たれるばかりです。
地震による死者は290人に達しているとされている中、一部の被災地では未だに行方不明者がいるとされ、死者はさらに増える可能性もあります。生存確率が一気に低くなる72時間を既に越えてもなお、今後の見通しは立たないばかりか、今回のような疑惑が発生してしまいました。
声をあげた建築技師
ネットでは様々な憶測が飛び交う
中部イタリアでの地震以降、ボランティアの動員や人々の連帯感はとても大きいものになりました。行動することができる人は、実際に現地でボランティアをし、ネット上でも様々なコメントや意見が飛び交っています。
プロの建築技師がFacebookで指摘
その中で特に私が注目したのは、Facebookにとある写真を掲載し、手抜き工事について言及した、あるイタリア人についてでした。彼は建築技師のゲラルド・ゴッティ(Gherardo Gotti)氏。彼は倒壊した建物の細部を現地で実際に観察した後、そのずさんな状態に気が付いたそうです。
そして、倒壊した建物の写真を使いつつ、施されたであろう工事について、イタリア大手新聞Corriere della Sera紙に対し技術的な解説をしてくれました。彼は「この倒壊の仕方は明らかに不自然だ」とFacebook上で指摘しています。
BUONO!ITALIAでは、実際にゴッティ氏と直接連絡を取った上で掲載許可を頂き、その指摘を掲載いたしております。
手抜き工事に対するプロの10の指摘
1.石ころや石灰の壁
屋根上の鉄筋コンクリートでできた梁。最も行き過ぎた問題に思われます。つまり、石ころや石灰でできたとても弱い壁にかなりの体重がかかったのではないでしょうか。
砂の城を作ってたった一つの煉瓦で支えさせるという偽りを犯し、ついに地震が起きます。砂の城は少しずつたわんでいったのです
2.鉄筋の梁を支えきれていない
似たような問題がここでも。鉄筋コンクリートの梁がはっきり写っています。梁より下の壁はとても弱い作りの一方で、上側は重く固いブロックで作られてしまっているのです。
3.バラバラな形の石材
こちらは形がバラバラな石材と石ころでできた石壁の例。効果をもたせるため、石はしっかり四角くまっすぐしていなければなりません。
さもないと、地震が起きた時に力は最も弱い部分にかかり、文字どおりそこを砕いてしまうのです。
4.問題は梁よりも壁
もう一度このひどい作りの壁の上にある鉄筋コンクリートの梁を見てみましょう。ご心配なく、この梁は適切に貼り合わせられた頑強な壁の上ならもっと効果を発揮していたはずなのです。
5.同様の問題
幸運なことに、鉄でできた屋根裏部屋の床が、内壁を壊さないようにしてくれたようです。どちらにせよ、鉄筋コンクリートによる覆いに関する問題は現に存在しています。
6.ビルの表面をむき出しに
赤い矢印で示されているのが石壁。幸運にも外側だけが壊れています。緑の矢印で示されているのはビルに上張りされている煉瓦です。
私が間違っていなければ、この上張り(表面に見える部分)がむき出しになっているために、構造的なところ以外の部分も見えてしまっています。
7.梁が梁の役割を果たせない
崩壊した壁の上にある、通常は壊れないはずの鉄筋コンクリートの梁です。耐震工事が実際に行われていましたが、頑丈な壁でできた建物と脆弱な作りの壁を持つ古い建物があるために、梁との区別ができなくなっています。
どちらにせよ明らかな欠陥であり、補強されていなければならないのです。
8.ホテルの跡形もなく
こちらは鉄筋コンクリートでできた建物。まさに安全な建物と言いたいところですが、酷い姿を人々に見せ続けています。灰色の骨組みが支えになり、他は住民を分けたり外から建物を塞いだりする機能があるのですが、ここでは両方が壊れかかってしまっているのです。
9.鉄筋にも根本的な問題が
詳しく見てみましょう。右の赤い矢印はあばら鉄筋が無いことを示しています。あばら鉄筋とはつまり、垂直の鉄筋をつなげるはずの水平向きの鉄筋のことです。建築に対する事実上の冒涜です。左の赤い矢印のように、セメントは粉々になりこれ以上何も支えられません。
緑の矢印で示されているのは亀裂が入った詰め物。構造上役割はありませんが、もしこの家のように壊れかかっていれば、残念ながら危険な状態です。
10.問題になった学校は?
こちらはアマトリーチェの学校です。学校や軍事的な建物は法律によって直立して「いなければならない」と規定されています。つまり地震が終わっても無傷で、更に業務が遂行できる状況でなければなりません。
詳細かつ鮮明な写真はありませんが、仮説として、原因はごく普通のことだと思われます。外壁に使われた鉄筋コンクリートの固く重いブロックを支えていた内壁が、明らかに脆弱だったということです。
赤い矢印は石材を使った内壁を、緑の矢印は鉄筋コンクリートの梁を示しています。この梁は高級で重たいものです。黄色い矢印は鉄筋コンクリートでできた床です。
さいごに
イタリア大手新聞や専門家の意見を引用する形で、アマトリチャーナの建物崩壊に関する人災の可能性について考察してみました。こうした問題は、災害が起きてから2年以上が経った今日においても、私たちが考えていくべきなのではないでしょうか。