グローバル化に抗えるか…イタリアとスターバックスの歴史・現状・将来性を考察してみた

グローバル化に抗えるか…イタリアとスターバックスの歴史・現状・将来性を考察してみた

ゆうさん

学生時代にローマ・サピエンツァ大学に留学し、シチリア出身マンマが統べる大家族にてホームステイ。今は日系企業で国際提供業務に従事する社会人3年目。イタリアで仕事をする機会を細々と狙っています。サザンオールスターズとサンドウィッチマンが大好き。

【本記事の概要】

世界的なコーヒーチェーンのスタバが、イタリアには一つもないという事実を受けて、その理由や、出店の現状、将来性について迫る。

1.はじめに

海外旅行をする若者を中心に、一種旅行の楽しみとなっていることがあります。それは、各国のスターバックス(以下スタバ)に行くことです。アメリカ・シアトル発祥のスタバは、2017年時点で世界90カ国以上22,000店舗を持つ、世界最大のコーヒーショップチェーンです。

そんなスタバは、各国や各都市によってオリジナルのグッズ(タンブラーやマグカップ等)を販売しています。ドリンク以外のグッズのブランド戦略も、現在では重要な役割を担っています。スタバファンにとっては、旅行先のスタバで珍しいフレーバーのドリンクを飲んだり、限定グッズを買ったりすることも、大きな楽しみです。

そしてその例に漏れず、イタリアを訪れる日本人旅行客も、多くがスタバを探しているようです。私がローマに留学中、多くの友人がやってきては「ローマ(イタリア)のスタバってどこにある?」と訪ねてきました。その度に決まって私は「イタリアにスタバはないんだ」と説明し、彼らの驚く顔を見てきました。

実は、2016年頃より、イタリアにスタバ一号店をオープンさせる計画があるものの、延期に延期を重ね、最終的には2018年秋のオープンを目指しています。

「イタリアにスタバが無い理由」「オープン前からスタバが苦戦している理由」は、いくつかあります。では、それはどんなものなのか?本記事では、これまでスタバを寄せ付けてこなかったイタリアの文化や、スタバ創業者の思い、展開の将来性を分析し、本質に迫っていきたいと考えています。

2.イタリアにスタバが無い理由

2-1.バール文化の存在

イタリアにスタバが無かった、つまりコーヒーチェーンが必要とされてこなかったのには、「イタリアのバール文化」が関係しています。

バールとは、コーヒーをメインとし、その他のドリンクやお酒、軽食を提供する飲食店のことです。イタリアにおけるバールの歴史は、ヴェネツィア・サン・マルコ広場の「カッフェ・フローリアン(Caffè Florian)」が誕生した、1720年にまで遡るとされています。

そのバールは、チェーンとしてではなく、個人の自営業としてイタリア全土に広がっていきました。現在イタリアのバールは約17万店あるともされており、いかにイタリア人の生活においてバールでコーヒーを飲んだり、軽食をとったりすることが当たり前になっているかが伺えます(ちなみに、日本のコンビニの数は約55,000店とされています。詳細はこちら)。

仕事前の朝食、ランチ後の眠気覚まし、ディナー後の暇つぶしetc...と、現在もイタリア人にバール文化が深く根付いていることは、私たちが留学している中でもよく分かりました。つまり、こういった状況下において、チェーン的なコーヒーショップの需要は無かったといえるでしょう(潜在的な需要は別としても)。

2-2.コーヒー文化

バールと同時にそこで飲まれるコーヒーもイタリア全土に定着していきます。イタリアにコーヒーが入ってきたのは17世紀後半とされ、エジプトから輸入されたのが契機でした。

その後1884年から1905年にかけて、カフェ・エスプレッソ(Caffè espresso)という淹れ方が発明・定着されると、イタリア人の国民的ドリンクとしてエスプレッソが普及していきます。エスプレッソによって淹れられるコーヒーは、高圧で抽出し、かつ分量が少ないため、非常に濃厚で苦味があるのが特徴です。

エスプレッソに付随して時代を追うごとに、エスプレッソを用いたカフェ・ラッテ(前述のフローリアン発祥)やマッキアートなども生まれ、独自のコーヒー文化が形成されていきました。エスプレッソ方式によるコーヒーは、イブリク方式(ポット状の容器に豆を入れて煮出す)や私たちもよく知るドリップ方式の原型などに次いで生まれ、フランスやドイツに伝えられ、世界各地で独自の淹れ方に改良されていきました。

このように、イタリアはコーヒー豆や初歩的な淹れ方は輸入しましたが、その後イタリア独自のエスプレッソは、むしろ世界中に輸出されていったのです。

3.スタバのイタリア進出の背景

3-1.スタバの誕生と歴史

ここでは一旦脱線し、スタバの歴史について見ていきましょう。

スターバックスは1971年、アメリカのシアトルで誕生しました。当時はただのコーヒーショップでしたが、82年に入社した現CEOのハワード・シュルツ氏は、83年に訪れたイタリアのミラノとヴェローナの訪問をキッカケに、イタリアのバール文化に感銘を受けました。そして帰国後、エスプレッソ主体のドリンク販売を提案します。

シュルツ氏は85年にスタバを退社し、エスプレッソ主体のコーヒーショップIl Giornaleを自ら立ち上げます。イタリアのバールに見られる「立ち飲み」を踏襲するような、「テイクアウト」主体の販売が大人気となり、87年にはスターバックスと商標を買収するまでになりました。

その後、2015年時点で世界90カ国に店舗を構える、グローバルなショップに成長したのは、皆さんご存知かと思います。そしてここで伝えたかったのは「スタバのコーヒーは、イタリアのバールやエスプレッソ文化に影響を受けたということ」です。この影響が現在のスタバのイタリア進出に関係しています。

3-2.スタバのイタリア出店・展開

このようにしてイタリアのバール文化に大きな影響を受け、今日では世界を代表するグローバル企業に成長したスタバですが、それでもイタリアへの進出は行われてきませんでした。

理由は、まさしく上で説明した通り、イタリアにはチェーン店が無くとも、街のいたるところにバールがあり、そこで美味しいコーヒーを楽しめるからです。

シュルツ氏は、イタリアに対して強い思いを持っており「(スタバのイタリアへの出店は)大きな夢の集大成だ」「我々のこれまでの成功や成長、発展を振り返るとき、いつも何かが欠けているように思えた。それはイタリアに進出していなかったことだ」(日経新聞)と語っています。

そしてついに2016年2月、イタリアに初の店舗をオープンさせる計画を発表したのです。場所はミラノ。流行の最先端であるこの街は、新しいものを受け容れる文化も他都市よりは強いとされており、まさに1号店を出店するにはふさわしいでしょう。

当初の計画では、2017年春にミラノで一号店をオープンさせ、その後の5-6年間でイタリア全土に約200店舗を展開する予定を立てていました。

3-3.世界の反発、上手くいかない一号店

ですが、その計画は早々に頓挫することとなります。まず一号店構想を発表した時点で、イタリアのみならず世界中から批判の声が噴出し、いかに人々がスタバのイタリア進出を否定的に見ているかが浮き彫りになりました。「イタリアのコーヒー文化の終わりだ」や「文化侵略だ」などの様々な意見があったようです。

結局、2017年3月オープン予定だったミラノ店は同年秋予定にズレこんでしまいます。代わりに同年2月には、オープニング前のComing Soon的な意味も込めて、ミラノのドゥオモ広場にヤシの木が42本植えられました。

しかし歴史あるドゥオモの目の前に、一切関係ない熱帯植物であるヤシの木が植えられたことで、さらにミラノやイタリアでは反発が強まります。イタリア北部の右翼政党による抗議活動が行われただけでなく、同月19日未明には、何者かによってヤシの木3本が放火される事件も起きました(afp)。

以上のような反発や抗議を受け、最終的にミラノの一号店は現在(2018年2月)まだオープンしておらず、2018年秋を目指した準備が水面下で動いているようです。

3-4.ここまでスタバを嫌う理由

単純な反対意見のみならず、政治政党のデモや放火事件などがあったとなると、やはり何か物々しさを感じますね。では、なぜスタバはここまで嫌われているのでしょうか?

3-4-1.バールと相容れないグローバル企業

緑が現在進出中の国。イタリアは将来的に進出する国として、青になっている(Wikipediaより)。

スタバのような世界展開する企業と違い、イタリア各地のバールは自営業として経営されています。独自のバール文化を守ってきたイタリアにとっては、外資の介入によってこれまでの競争様式を一気に破壊される可能性があります。

後述するマクドナルドも、約30年前、ローマに一号店を出店した時は批判の嵐でした。また、イタリアは全体的に中小企業(特に従業員15人以下の企業)が多く、ショップのような部類以外でも、多国籍企業のグローバル経営とは、やや相容れない部分があります。

3-4-2.アメリカンコーヒーの味

また、多くのイタリア人は、単純にアメリカンコーヒーを好んで飲んでいないようです。私の友人である、10-20代のイタリア人20人に「アメリカのコーヒーってどう思う?」と聞くと、17人が否定的な意見を述べていました。特にそのうちの1人は「アメリカのコーヒーなんて汚い水(Acqua sporca)だ」と吐き捨てるほどです。

それだけイタリア人は、自国のエスプレッソに自信をもっており、アメリカンなんて受け容れ難いと考えているようです。

4.例外はある外資&カフェチェーン

ここまでスタバに否定的なイタリアを見てきましたが、とはいってもスタバが全土に展開することはあり得るのではないかと思っています。実際にイタリアのチェーン店を2つ取り上げて考えてみましょう。

4-1.ファストフードの雄・マクドナルド

4-1-1.マックとイタリアの関係性

ローマのスタバ(スペイン広場付近)

大手ファストフードチェーン・マクドナルドがイタリアにやってきたのは、今から約30年前の1985年。イタリア北部の都市ボルツァーノに一号店がオープンし(99年7月に閉店)、その後86年3月、ローマのスペイン広場に二号店がオープン。このショップは大変な反発を呼び、多くの市民が「マック出て行け」の抗議を繰り返しました。

こういった一連のファストフード流入を受け、同年、イタリア北部ピエモンテ州のブラ(Bra)で「スローフード運動」が生まれたほどです(この運動についての詳細はこちら)。

オープンして10年間はなかなか思うようにシェアを伸ばせなかったマックですが、96年にイタリアのハンバーガーチェーンであったBurghyの約80店舗を買収し、一気に全国展開を加速させることとなりました。

そして、マックの手軽さが、若者を中心に受けたこともあり、最終的に2010年には全国400店舗を展開するまでになりました。今ではイタリアの都市であれば、どこでもマックを見かけます。

4-1-2.イタリアにおけるマックの特徴

私は、マックがイタリアで生き残れる理由はいくつかあると思っていて、そのうちの2つをここで提示したいと思います。

4-1-2-1. Mc Cafeの存在

2009年より、バールのような機能を兼ね備えたマック・カフェがイタリアの一部マックでもオープンしました。マック・カフェは、マックの入口近くに設置され、ハンバーガーではなく、エスプレッソやジェラートを手軽に楽しめるバール的な機能です。

マックカフェ自体は世界各地に存在しているものの、この特徴がややイタリアのバールに近いものになっていたため、2010年以降のマックのイタリアにおける拡大には寄与しているのではないかと考えています(敷地が広い店舗のみに導入されている印象はありますが)。

4-1-2-2.安さ

これはあくまで副次的要素かもしれませんが、マックのハンバーガーはやはり安いです。普通のハンバーガーであれば€1(130円)、チーズバーガーなら€1.5(200円)と、単品であれば、かなり安いです。

それが、外食が高騰する大都市(ローマ、ミラノ、ヴェネツィアなど)であれば尚更で、小腹が空いた時に食べる軽食としても活躍します。

ローマの市街地では、主食の1つであるピッツァは€8~(1100円)、軽食のパニーノは€2.3(260-390円)、ケバブは€4(520円)程度なのと比べれば、やはりお金が無い若者や学生にとっては、オアシスです。日本におけるマックの存在とも似ています。

またコンビニがないイタリアでは、€1の水を買うためだけにマックを訪れる人もいます。

4-1-3. 現在も残る反マック

それでもやはり、イタリアの多くの人々はマックを心から受け容れたわけではないようです。

私がローマに留学していた際も、何度もマックには足を運びましたが、多くの友人が否定的な見解(マズいけど腹を満たすためだけに食べる、座る所がなく仕方ないから入店する、大して目ぼしい料理が食べれないのでマックに仕方なく入店する、など)を示していました。

また、今日でも定期的に世界中で開催される「反・マクドナルド運動」の際には、イタリア各地のマックの前でデモが行われています。

4-2.コーヒーショップ・アーノルド

4-2-1.マイナーブランドが着実に展開

イタリアにはコーヒーショップチェーンが一つもないと思われがちですが、そうではありません。その例がイタリア全土フィレンツェやミラノを中心に(6店舗展開する、アーノルド・コーヒーです。

アーノルドは"American Coffee Experience"をウリにしており、まさにスタバと同様アメリカンコーヒーを提供しています。イタリア人があまり好まないアメリカンコーヒーチェーンでありながら、なぜバールとの差別化に成功し、店舗を増やしているのでしょうか。

4-2-2. アーノルドの特徴

マックと同様に、アーノルドにはどういった特徴があり、それがイタリアにおいて受け入れられているのかを考察したいと思います。

4-2-2-1.コーヒー以外でも勝負

アーノルドコーヒーは、正直言うと、コーヒーの質自体がとても高いわけではありません。その分、それ以外の点で差別化を図っています。例えば、夏になると店先には常にスムージーの看板が前面に押し出され、10種類以上のフレーバーを楽しめます。また、他のバールに比べても美味しいパニーノやマフィンなどが味わえます。

4-2-2-2.座席がゆったり

また、バールではコーヒーを座ってゆっくり飲む文化はそれほどない(一部例外あり)ため、座席数が少なかったり人の出入りが多かったりとやや落ち着かないのですが、アーノルドは私達がよく知るカフェ同様、ゆったりとした座席があり、Wi-Fiも提供しています。

こういった理由からバールとの差別化が図れているアーノルドは、イタリアで生き残ってきていると推測しています。

5.スタバの方向性

さて、ここまでの長い長い記述で、イタリア文化とそれにまつわるスタバの現状、さらにはスタバが見習うべきなのかもしれないチェーン店について、じっくり見てきました。では、これらを踏まえた上で、今後スタバはどういった戦略を取っているのか、また将来的に取るべきなのかについて考えてみましょう。

5-1.低価格のバールに打ち勝てるか

スタバを待っているのは、ここまで説明した住民の反発だけではありません。バールと比較した時の、価格の高さも解決しなければならない問題だと推測しています。

FIPE(Federazione Italiana Pubblici Esercizi、イタリア公共飲食店舗連盟)が2013年に発表した『イタリアにおける飲食物報告書』によれば、バールにて提供される、エスプレッソの価格は€0,77-1.08(100-130円)、カップチーノの価格は€1.03-1.56(130-190円)となっており、非常に安価なのが特徴です。

一方スタバで提供される最も低価格なコーヒー(アメリカーノ)は、同程度の物価水準であるギリシャにおいても€2.75(350円)程度です(詳しくはこちらの記事)。もしカップチーノなど他のドリンクを飲みたければ、さらに高くなると予想されます。

「アメリカのコーヒーに対して抵抗感があるにも関わらず、バールよりも高いお金を払わなければならない」という課題は、スタバにつきまとう悩みの種ではないでしょうか。

5-2.スタバの戦略

5-2-1.「リザーブ・ロースタリー」でオリジナリティを高める

ミラノにオープンする一号店は「スターバックス・リザーブ・ロースタリー」になるとされています。これは、アメリカ・シアトルの本店や、上海で既に採用されている様式で、2018年秋には日本・中目黒にもオープンする予定となっている特徴的な店舗です。

大型の焙煎機を導入し、世界中から特徴的なコーヒー豆が運ばれてきます。そして店舗内において、焙煎・抽出されるまでの様子を体感することができるだけでなく、コーヒーのスペシャリストやマイスターと会話しながら、好みの豆やローストの方法を選ぶことができるようになっています(詳しくはこちらの記事)。

普通のスタバとは一線を画した、このリザーブ・ロースタリーをイタリアの一号店としようとしているあたりに、ミラノ店への本気度が窺えます。私は当初「スタバなんて受け容れられるわけがない。」と考えていましたが、リザーブ・ロースタリーでは丁寧にオーダーメイドのコーヒーが提供されることを知り、「もしかしたらイタリアでも流行るかもしれない。」と思い始めました。

5-2-2.これまでになかったカフェ

さらに、アーノルドの例にあったように、席数の多いカフェには一定の需要があるようです。仕事や旅行において時間を潰す際には、やはりカフェのような場所が重宝されるはずです。さらにスタバではWi-Fiも利用可能なため、バールとは異なる特徴を持った空間演出ができると考えています。

5-2-3.ターゲットは?

以上の特徴から、果たしてどんな人がスタバを積極的に利用しそうかを考えてみました。イタリアにおけるスタバの特徴をザックリと

  • 一号店としての珍しさ
  • フリーWi-Fiの存在
  • オリジナルグッズ
  • 時間潰しができるスペース
  • (外国人にとっては)慣れ親しんだカフェ

とするならば、ターゲットは「若者」「外国人旅行客」「ビジネスマン」となるのかなぁと、勝手に想像しています。

6.さいごに

ここまで非常にゆっくりと、イタリアとスタバの将来性について探ってきました。その割には、具体的なターゲットについてもう少し絞ることができたら、もっとよかったかなとは思っています。

いずれにせよ、オープンしてみないとどうなるか分からないのは、正直なところ。マックのように長期的に受け容れられていくのか、それともなかなかうまくいかないのか、非常に気になるところです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事を執筆するにあたって、考え方の参考にした書籍を紹介させていただきます。

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