皆さんイタリアの音楽は好きでしょうか?私はイタリアの音楽の中でも、特にポップやラップのジャンルが好きなのですが、実は日本語のラップって聞いたことがないんです。
何となく英語やイタリア語だと聴きやすいという単純な理由なので、「外国かぶれ」とかではない(と思いたい)のですが、そもそもイタリアにおいてラップはどのように発展してきたのでしょうか。
ラップというと、やはりカウンターカルチャーとしての印象がかなり強くなりますし、その根付き方は国によって大きく異なっています。だからこそ、この記事では、イタリアのラップの歴史を簡単に追いかけることで、アメリカや日本のラップが好きな方にも、イタリアのラップに興味を持ってもらえたらと思って書きました。
この記事は、これからBUONO!ITALIA内でそれぞれのラッパーを紹介する前に、イタリアのラップに関する知識を、皆さんとの間で共有できたらいいな、という考えで執筆しました。
そもそも、ラップとは?
ラップとは、広く、似た言葉や語尾が同じ言葉などによって韻を踏み、歌のようではなく、喋るような抑揚で歌うスタイルのことを指しています。Wikipediaの開設は、専門用語だらけで何を言っているのかイマイチ分かりにくかったため、私なりにまとめ直してみると、上記のような説明になりました。
世界で最も有名なラッパー・エミネムの曲「Lose Yourself」では、その韻をよりた易く見つけることができます(動画の52秒からです)。
His palms are sweaty, knees weak, arms are heavy
There's vomit on his sweater already, mom's spaghetti
He's nervous, but on the surface he looks calm and ready
To drop bombs, but he keeps on forgettin'
What he wrote down, the whole crowd goes so loud
He opens his mouth, but the words won't come out
He's chokin', how, everybody's jokin' now
The clocks run out, times up, over, blaow!
いかがでしょう。耳で理解する方がずっと分かりやすいと思います。
こうしたラップミュージックは、1960-70年代にアメリカのニューヨークで生まれたとされています。アメリカで若者を中心に爆発的な人気を見せたラップは、その後ヨーロッパや日本へ輸出されていき、各国で大人気となりました。
イタリアのラップ
では、続いてイタリアのラップについて、見ていきましょう。どういった特徴が見られるのでしょうか。
1.社会派とは限らない
ラップはアメリカや各国において、政治や社会への批判を主題としたものがとても多く広がっています。もちろん、イタリアにラップが輸入されたばかりの時は、そういった側面を色濃く持っていましたが、1990年代、イタリアにおいて最もラップが流行った時代には、どちらかといえば、バラードやポップに近いような歌詞や曲調に近づくようになっていきます。
2.地方色が強い
イタリアらしいとも言えるかもしれませんが、イタリアのラップはとても地方色が色濃く出ています。例えば、その土地の方言を用いたラップを用い、その地方中心で活動を行うラッパーもいます。さらには、イタリア人の若者でも、全国のラッパーに精通しているというわけではなく、どちらかといえば、自分の地元のラッパーを聴き、応援する傾向にあるようです。
3.人々と文化を混ぜ合う
地方色が強いといっても、イタリアに特色のある、お互いの地方を批判し合うといったスタイルのものは、あまり多くありません。むしろ、人種差別や北部主義を嫌い、イタリア人を平等に繋げていくようなラップが多いのです。この辺りは、イタリアのラップの好きなところです。
イタリアのラップを時系列で追いかける
さて、特徴をザックリと3つ挙げましたが、それだけでは今日まで続いてきたイタリアラップを十分理解することはできません。そこで次に、イタリアにラップが輸入されてきた1980年代から今日までのイタリアラップの変遷や有名なラッパーなどを解説する中で、より解き明かしていきたいと思っています。
1980年代
社会センターから始まったラップ
イタリアにおける初期のラップを普及させた大きな要因の一つとして、「社会センター(Centro Sociale)」というものがあります(写真上のような場所)。社会センターとは、若者を中心とした地域住民によって運営されている文化活動や市民の交流の場のことを指していて、合法・非合法の両方の様々な活動が行われてきました。
特に社会センターは、政府や社会に対するカウンターカルチャー普及の場としての役割も果たしており、そこに80年代にラップが輸入されることとなりました。もともと社会センターでは、パンクミュージックやヒップホップが流行っており、ラップも抵抗なく受け入れられていったと推測されます。
徐々にイタリア語のラップに
80年代前半においては、英語のラップがそのまま輸入される形で、イタリア語のラップはほぼ存在しませんでしたが、80年代中頃から後半にかけて、ラップがイタリアの文化として「翻訳」されていきました。つまり、自分でイタリア語でのラップを書いたり、それを歌ったりする人々が現れ始めたということです。
その時代からイタリア全土で有名になるラッパーが登場し始めました。
1990年代
昔はラップは売れないが通説
1990年代のイタリアは、まさに「伝統的な」ラップが普及しました。それはつまり、政治や社会を批判したり、自分達が(政治や社会に)過去に奪われてきたものを取り返そうと主張したりして、ラップを通じて彼らの考えやイデオロギーをを広めていこうとしたのでした。
そのため、ラップはまさに社会運動の中心で行われていきます。ラップといえばカウンターカルチャー(説明をつける)の代表ですが、イタリアにおいてもそれは変わりありませんでした。
各地の社会センターで誕生したラップグループは、ポッセ(Posse)と呼ばれ、当時の社会に異議を唱えていきました。ですが、当時はイタリアのみならず世界全体で、ラップは面白いが売れないというのが通説。あくまでもカウンターカルチャーの域を出れずにいたのでした。
新たなラップのスタイルを築く
ですが、こうした「伝統的なラップ」は、新たな世代の登場によって変化することとなります。それは、現在はソロで活動するJ-AX(ジェイ・アックス)とDJ Dad(DJ ダッド)から構成されるArticolo 31(アルティコロ・トレントゥーノ)やKaos One(カオス・ワン)、さらにはSangue Misto(サングエ・ミスト)やLou X(ルー・デーチモ)といったラッパー達の登場です。
彼らの中でも特にArticolo 31らは、ただ社会や政治の批判に留まらない、彼ら自身の個人的な悩みや辛さなどの感情面までもラップにしていく、ラップらしくない明るいリズミカルな曲調を織り交ぜるといった、ややバラードやポップ的な要素を含むラップを作りあげ、一時代を築きました。
そしてArticolo 31の1993年のアルバム『Strade di Città』 は、「売れない」とされていたラップにおいて、当時史上最高の9万枚を売り上げます。彼らは、その後も10万枚を超えるヒットアルバムを飛ばし続けるなど、まさにラップは売れないの常識を覆したと言えるでしょう。
またSangue Mistoも、この当時にラップに欠けていた社会性や洗練されたリズムなどで、高く評価されています。そして、この時代のラップの内容が、基本的にその後のイタリアラップにおいて重要な役割を持つようになります。
ちなみに、Sangue MistoのNeffaは、1996年にアルバム『i messaggeri della dopa』でミリオンを達成しました。
ラップのゴールデンエイジ
90年代のイタリアミュージックにおける、ラップの躍進はまだまだ終わりません。ニューヨーク育ちのラッパーJoe Cassinoは、90年代後半で最もインパクトを与えたラッパーの1人に数えられるでしょう。
そして前述のSangue MistoやArticolo 31に加え、Uomini di MareやSacre Scuoleといったラッパーのグループがミリオンヒットを飛ばし、イタリア各地で人気を博していきます。
特にUomini di MareのFabri fibraやSacre ScuoleのGué Pequeno(ゲ・ペケーノ)は、両グループが解散後の2018年現在、イタリア全土で最も有名なラッパーにまで上り詰めました。
2000年代
ラップ倦怠期
そして2000年代に入り、今後も更なるヒットが期待されたラップミュージックでしたが、2000年代の大きな2つの事件を契機に、その人気に陰りが見えます。
1つ目はArticolo 31が解散したこと、もう1つはこちらも同世代のNeffaがラップを辞めたこと(上動画)です。イタリアラップの黎明期において伝説的な活躍を見せてきた彼らの第一線からの引退は、当時の若者に大きな影響を与え、ここから2,3年の間、ラップの人気が停滞する倦怠期がやってきました。
世界的レーベルとの契約
この倦怠期の終焉に貢献したのが、『Mr.Simpatia』を出したFabri fibraであり、『60Hz』を出したDJ Shoccaであり、『Mi Fist』 を出したClub Dogoといった、新世代を担うラッパーたちでした。
彼らはワーナーやユニバーサルなど世界を代表するレーベルと契約し、巨額の契約金を得ます。外資レーベルのビジネスがイタリアに介入してきたことにより、再びイタリアラップは復活。全国で再びブームが生まれ、人気のみならず商業的にも大きな発展を収めました。
フリースタイルラップが全国へ
また2000年代後半には、各地でフリースタイルラップなどのラップに関する大会が多く開催され、配信されるようになりました。
もちろん、大会の開催であれば、これまでも決して少なくはありません。ですが、その大会の様子がYouTubeやその他の動画配信ストリーミングサイトで中継されたり、動画として残ったりしたこと、それを契機にテレビなどの放送業界も、これまで以上にラップにビジネスチャンスを見出したことなどが影響し、更なるラップの人気へと繋がっていったのです。
この時期には、ラップ黎明期の頃とはかなり違うスタイルのラップが特徴的なFedez(フェデズ)やClementino、Marracash(マラケシュ)などが注目を集めます。Fedezは人気番組「X Factor(オーディション・ドキュメンタリー番組)」で優勝する、Clementinoはフリースタイルラップの大会で圧倒的な実績を誇るなど、新しいやり方でイタリアでの知名度を高めていきました。
2010年代
カウンターカルチャーからメインストリームへの移り変わり
1980年代から2010年代までの間、ラップの在り方は徐々に変化してきましたが、やはり政治・社会への批判といった性格は確実に失われることに。それとともにイタリアにおけるラップも、もはやカウンターカルチャーというよりも音楽のメインストリームに変わったと言えるかもしれません。
再び集まるラッパー達
1990年代ラッパーたちは様々なグループを結成したものの、90年代後半から2000年代にかけては多くのグループは解散、ラッパーたちは個人で活動するようになりました。
さて、2010年代のラッパーたちは、またグループを結成したり、一緒に音楽活動をするようになったりする傾向にあるようです。例えば、Articolo 31解散後、個人で活動し続けていたJ-AXは、Fedezとの積極的なコラボを実施。一曲目の「Vorrei ma non posto」はYouTubeで再生回数1億6,000万回を記録し、アルバム『Comunisti Col Rolex』も10万枚以上を売りあげました。
他にはそれぞれ個人で活動していたMarracashとGué Pequenoも2016年にアルバム『Santeria』をリリースするなど、特にここ数年でラッパー同士の交流がかなり盛んになっているような印象です。
イタリアのラップを聴くには?
1.CDを購入する
Amazonであれば、イタリアの幅広い時代のラッパーのアルバムを購入することができます。中には中古で1枚200円程度になっているものもあります!
形に残るCDが欲しい場合や、中古でかなり安く購入できる場合は、是非CDの購入をオススメします。最近のCDで言えば、前述のJ-AX&Fedezの『Comunisti Col Rolex』、MarracashとGué Pequenoの『Sanitaria』のどちらも購入できます!
2.音楽配信サービス(AppleMusicなど)の契約をする
もう1つの方法が、AppleMusicやSpotifyなどの音楽配信サービスの契約をすることです。
月額料金を支払って、世界中の好きな歌手の好きな曲を好きなだけ聴くことができます!たくさんの音楽を聴きたい方にとっては、CD購入はかなり大変なはず。その場合、月額で聴き放題のサービスは、本当にありがたいです。
有名なのが、AppleMusicとSpotifyですが、イタリアの歌手に関してはAppleMusicの方が曲数や登録歌手が多いです!また、Spotifyに比べて、それぞれの有名歌手のプレイリストがたくさん作られています。
どのラッパーの曲があるかは、是非Apple Musicで確認してみてください!
さらに!通常月額料金980円ですが、学生であれば480円!この値段で毎日、決して日本では出会うのが簡単でないイタリアの音楽を聴き続けられるため、本当に安いと思っています。
さいごに
いかがでしたか?イタリアのラップ文化について、時系列を追いかけながら明らかにしていきました。この記事の中で、何人ものラッパーが登場しましたが、今後の記事の中で、彼らについて紹介する時は、この記事のことを思い出し、読み返してもらえると嬉しく思います。
参考にした書籍・記事・論文など
La lingua del rap underground italiano
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