2020年6月にイタリア政府によって国有化されたフラッグシップ・キャリア、アリタリア-イタリア航空(以下、アリタリア航空)。
そんなアリタリア航空について取り上げた前回の記事では、これまでの公的資金の投入や、大きな変革の必要性、コロナ禍での改革の難しさなどについてお話しました。
続きを見る【第1回】"国有化"アリタリア航空が背負う過去の負債と再建
この記事では、そんなアリタリア航空が直面している厳しい現状と、それに対する批判、また擁護の声などについて取り上げます。
アリタリア航空への賛否
国民は1人10ユーロ寄付している
アリタリア航空に対しては、国民からもかなり厳しい目を向けられています。20年に渡ってほとんど利益を上げられない状態なのであれば、批判されても頷けるでしょう。失墜したフラッグシップ・キャリアへの信頼は、どのようにしたら取り戻すことができるのでしょうか。
毎年、アリタリア航空への資金注入のためにはすごい金額が使われてるといいます。その額は、年間で約5-6億ユーロ(600-720億円)。そして2019年発表の統計では、イタリアの人口は約6,000万人とされています。
つまり、大雑把に言えば、国民が支払う税金のうち、1人当たりで約10ユーロ(1,200円)は、アリタリアの赤字負担のためだけに使われていることになります。
さらに、SWG社によって2019年12月に行われた調査によれば、約55%の国民が、これ以上の税金がアリタリア航空のために使われることに反対しているようです。
無駄に大規模で飛ばせば、マイナスになる
以前の記事でも紹介しましたが、アリタリア航空は、今後事業計画によって、規模をかなり減らして採算性を高めることが求められています。例えば、2020年時点で113機保有する機材は、今後売却等で92-105機まで減らされる予定です。
路線についても、LCC等との競争がし烈なEU圏内は減少の可能性があります。
デロイト・イタリアの元最高経営責任者のリベロ・ミローネ氏は、「アリタリアは、競合他社に比べて搭乗者数が少ないにも関わらず、グランドスタッフなどの社員数が多すぎる」と話しています。2019年のアリタリア航空の社員数は10.747人です。
ちなみに、アリタリア航空の2019年の営業利益率はどうだったのでしょうか?この航空会社は連結財務諸表を発表していないのですが、伊ビジネス誌Milano Finanzaによると、昨年の営業利益率は-14.1%だったとのことです。飛ばせば飛ばすほど赤字の状態です。
擁護する声も...
一方で前出のミローネ氏は、比較的楽観的な立場を取っています。ミローネは過去に、コンサルタントとして世界でも有数の航空会社にアドバイスをし、一時はアリタリアで監査役も務めていましたが、彼は他の人に比べると、状況を楽観視しています。
また同氏は、今回の未曾有のコロナ危機によって、アリタリア航空が、強制的にでも戦略の見直しができる貴重な機会を得たと述べています。
さらに、今後のアリタリア航空は、航空会社として独立してしまうのではなく、ホテルや政府の観光プロモーション、観光地、さらには時には競合にもなる鉄道業界とも連携を取りながら、イタリア全体の魅力を押し上げる働きをしていくことが、新たな戦略の肝になるとしています。
LCCからの批判はかなり大きい
こうした擁護がある一方で、政府主導での再建に批判的なのは、イタリア国民ばかりではありません。
政府などの援助をそれほど受けず、徹底した採算意識でビジネスモデルを確立してきたLCC業界からすれば、困ったときにすぐに政府に助けてもらえるアリタリア航空のような航空会社は、気に入らないに違いありません。
イタリアLCC協会(ALCALF)のフロントマン、マッテオ・カスティオーニ氏は、政府のアリタリア航空優遇は、非常に不公平だと語り、1つの航空会社を救うことで、他の航空会社をも多くの危機にさらしてしまう、と批判しています。
また、ライアンエアーCEOのマイケル・オレアリー氏は、パオラ・デ・ミケーリ国交省大臣とのビデオ会議にて、「政府の計画は、市場における公正な競争を損ねることになる」と語っています。
さいごに
ビデオ会議でのこうした指摘に対して大臣は、「政府は、公平な競争を妨げるつもりはなく、むしろ平等なルールや権利をすべての人・会社に保証している」と述べるにとどめましたが、これまで他航空会社への厳しい指摘で様々な物議を醸してきたオレアリー氏の不満は収まることなく、ついにライアンエアーがアリタリア航空をEUに対して異議申し立てを行う事態に。
次の記事では、その辺りの内容について詳しく取り上げたいと思います。
続きを見る【第3回】"国有化"アリタリア航空、LCCライアン&ウィズエアーと対峙