イタリアにまつわる鑑賞というとオペラのイメージが強いかもしれませんが、イタリアには地域に根差した伝統的な演劇がたくさんあります。この記事では、イタリア発祥の伝統喜劇であるコメディア・デラルテについて紹介いたしましょう。
コメディア・デラルテとは
コメディア・デラルテ(Commedia dell'arte)とは、16世紀にイタリアで誕生した喜劇です。主に16-18世紀のヨーロッパにおいて人気が高く、一般庶民に非常に愛された演劇であり、当時の人々の生活と深く結びつき流行を生み出しました。
実は明確なルーツは明らかになっておらず、中世の道化師・ピエロのパフォーマンスが元となったともいわれており、作家 カルロ・ゴルドーニの戯曲において1750年に初めて定義されたくらい、文献ではなく常に人々とともにあった演劇です。
次の章では、コメディア・デラルテの特徴についてもう少し詳しくご説明いたしましょう。
コメディア・デラルテ 3つの特徴
コメディア・デラルテの代表的な特徴を、私は以下の3つにまとめました。
- ストック・キャラクターという仕組み
- 即興性が高い
- 「お決まり」と「期待の裏切り」が程よい
①ストック・キャラクターという仕組み
私も勉強して始めて知りましたが、コメディア・デラルテの最大の特徴は、演者の役割が決まっている、「ストック・キャラクター」という手法をとること。どんな演目・ストーリーであっても、役者は常に同じような役割を演じます。具体的にはコメディア・デラルテでは、以下のような分類があります。
アルレッキーノ (Arlecchino)
ピエロのような恰好をしており、いわゆる軽業師、道化師。機転が利いていて人を出し抜くこともあるが、悪人ではない性格です。物語のトラブルメーカーになることが多く、そのユニークな発想が皆をひきつけます。
イル・カピターノ(Il Capitano)
名が現すように将軍役。戦いが好きで自分の戦歴や経歴の自慢ばかりをしているが実際のところは臆病者であんまり頼りにならない。
インナモラーティ(Innamorati)
恋に落ちる人という意味。常に自分が一番美しいと思っており、そして常に恋愛のことばかりを気にしている。今でいうと”イタい”やつに分類されるのかしれません(笑)
パンタローネ(Pantalone)
お金は持っているがそれでもなお欲深い老人。
ドットーレ(Dottore)
教授。バランツォーネとも呼ばれ、非常に頭が良いが、その分うぬぼれている。
実際にはもっとたくさんの役割があるのですが、メインの役を取り上げました。
そうそう、大事な要素を忘れていました。コメディア・デラルテの演者は、必ず仮面をつけています。仮面自体でもそれぞれの役割を表すことがあり、演者がそれぞれの役割になりきっていることを観客は理解します。
②即興性が高い
演劇関係者以外はほとんど知らないイタリア語ではと思いますが、伝統的なコメディア・デラルテではカノヴァッチオ(Canovaccio)のみ用意されます。
カノヴァッチオ(Canovaccio)とはイタリア語で「麻・木綿などの粗い布地や布巾」などの意味。そこから転じて「ざっくりしたもの・状態」を指し、劇や映画の文脈では「大筋のシナリオやアクションだけで構成された台本」のことを指します。
①の通り、コメディア・デラルテの登場人物は定型化されているので、ベースとなる要素(演者の役割、大きなストーリー展開)はある程度一定です。一方、残りの部分は不確定なまま残される、つまり即興になるのです。
即興でうまく観客を巻き込みながら笑いを起こし、それでも大枠の流れは守るので、観ていて気持ちいい。一方演者はそれだけの機転や瞬発力が求められます。
③「お決まり」と「期待の裏切り」が程よい
ちょっと脱線します。私は漫才師のサンドウィッチマンが大好きで、すべてのネタの筋書きはある程度覚えています。ですが彼らのネタは何回見ても笑えますし、初ネタの時でも「絶対笑えるな」という妙な安心感があります。
それは、彼らのネタが絶妙な「お決まり」と「期待の裏切り」のバランスの上に立っていると思うからです。
例えば、ほぼ全てのネタに出てくるセリフ「ちょっと何言ってるかわからないです」や変な名前のお店(東京西川をもじった「西京東川」、カラオケ館をもじった「カラオケ舘」など)、伊達さんの体形いじりは、完全に「お決まり」です。
一方、富澤さんのすっとぼけや、伊達さんのバラエティ豊富なツッコミは、「期待の裏切り」です。「Aだと思っていたらBだった!」「Bまでは想像してたけれどまさかのCだ!」これが組み合わさっていることで、サンドウィッチマンは面白くなるのではと思います。
コメディア・デラルテも、ある程度の役割、ストーリーが決まっていることで、演劇では感じたことのない、絶妙な「お決まり」と「期待の裏切り」があります。
一度理解してしまえば浸りやすい世界で、例えば①-②の要素があることを理解すると、コメディア・デラルテのどの作品を観ても「やっぱりインナモラーティは今日もナルシストだ(笑)」「今回のカピターノは○○を怖がってるよ!」「このアルレッキーノはいつもと違う!」みたいに、ほかの演劇にはない楽しみ方ができると思います。
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どうでしょう?コメディア・デラルテに興味が湧いてきましたか?
「こんな記事じゃわからんて!実際にみたいて!」と思っていただけたら嬉しいのですが(笑)、実際、コメディア・デラルテはまだまだマイナー。また本国ヨーロッパでのブームは18世紀までだったので、イタリアに行ったからといって、いつでもどこでも観れるわけではありません。
しかし、日本で唯一コメディア・デラルテの取り組みを行っているのが、大塚ヒロタさん主催の「テアトロ コメディア・デラルテ」。イタリアの源流を受け継ぎ、日本でアレンジを加えたこの劇は、イタリア好きのみならず、演劇に少しでも興味があるなら観るべき!
次回の記事では、私が実際に「テアトロ コメディア・デラルテ」を観劇させていただいたレポートを投稿させていただきます。
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