ドイツ文学やフランス文学に比べると、あまり触れる機会の多くないイタリア文学。そんな中、異例とも言える人気を集めている作品があるのをご存知でしょうか?
『リラとわたし ナポリの物語1』(早川書房、2016)は、飯田亮介さんの翻訳が第4回日本翻訳大賞の候補作になったことで一躍話題になりました。日本語以外にも多くの言語に翻訳され、特にアメリカ合衆国では多くの著名人が絶賛し、世界的ベストセラーとなっています。
謎多き作家が描く『ナポリの物語』
ベストセラー作家の正体は…
これほど世界から注目される小説を書いたのは、イタリアの作家エレナ・フェッランテ(Elena Ferrante)。実は彼女、1992年に作家デビューして以来、一度もその正体を明らかにしていないというミステリアスな存在なんです。あらゆる取材には顔出しNG、イタリア版芥川賞とも言えるストレーガ賞にノミネートされた際にも正体を明かすことはなく…そんな彼女は一体誰なのか?という謎を暴こうと、「実はフェッランテは男性なのではないか?」「大学教授では?」など、各界から様々な説が飛び出します。
多くの憶測が飛び交っては否定され、フェッランテの正体は未だ明らかになっていません。しかし、特に彼女の小説におけるナポリの街の鮮明なイメージから、「フェッランテはナポリで育ったのではないか」という説は有力だと言われています。
ナポリの“リアル”を描く
フェッランテを一躍有名にした『ナポリの物語』シリーズは全4巻あり、合わせて「ナポリ四部作」と呼ばれています。日本語では第1巻『リラとわたし』に続き、第2巻『新しい苗字』まで翻訳が出ており、続々とファンが増加中。まずはこの『ナポリの物語』の舞台とあらすじを簡単に紹介しておきましょう。
舞台は1950年代、高度経済成長を迎えつつあるイタリア南部の都市・ナポリ。貧しい地域に住むふたりの少女、エレナとリラは小学校の同級生。おとなしく臆病な金髪の少女エレナと、男子にも負けないほど凶暴で勇敢な黒髪の少女リラ。何もかも正反対のふたりは不思議と惹かれ合い、のちに親友となります。
物語はエレナの目線で語られます。第1巻『リラとわたし』のイタリア語の原題、L’amica geniale—天才的な友だち—にも表れているように、リラは何をやらせても頭ひとつ飛び抜ける、非凡なほど賢く聡明な少女。エレナにないものをたくさん持ったリラは、彼女にとっていちばん身近で、でも憧れずにはいられない、いちばん遠い存在でもあるのです。思春期特有の、複雑でどこかもやもやする心情がいきいきと語られるこの小説。一度読み始めると止まりません…!
ナポリという土地が鮮明に描かれているのも魅力です。観光客としてナポリを眺めれば、その美しさばかりに目を奪われることでしょう。しかし、この小説を通して街を眺めれば、ナポリが現在の姿になるまでの街の成長や、貧しい人々の暮らし、生まれた家による格差、犯罪にまみれたスラム街といった、ナポリの決して美しいとは言えない一面も見ることができるのではないでしょうか。
第1巻『リラとわたし』ではエレナとリラの出会いから高校時代までが、第2巻『新しい苗字』ではそれぞれ別の進路に進むふたりの少女の人生が描かれます。巻を重ねるごとにふたりの成長を見守ることができるのも、この作品を読む上での醍醐味と言えるでしょう。
『ナポリの物語』を映像で!
本国のイタリア語版、そして英語版翻訳では、『ナポリの物語』は4巻まで発売されており、既に完結済み。そして2018年11月には、イタリアの放送局RAIとアメリカの放送局HBOの共同制作により、第1巻『リラとわたし』を8話完結にしたテレビドラマがスタートするという人気ぶりです。
撮影はもちろんナポリで行われ、現地では『ナポリの物語』のロケ地を巡るツアーも組まれているとか。
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世界中の『ナポリの物語』ファンが想像したナポリの風景、そしてエレナやリラをはじめとする個性豊かな登場人物たちが映像化するということで、放送前にもかかわらず話題を呼んでいます。
ドラマの予告編に映る『ナポリの物語』の風景は、イメージ通りでしょうか?
2巻以降のドラマ化も決定しているということで、今後も目が離せません。
さいごに
話題のイタリア発・ベストセラー、『ナポリの物語』を紹介しました。3巻、4巻の日本語訳が出るのが待ち遠しくなるほど、一度読んだらハマること間違いなしの作品、まずは1巻目からお手にとってみてはいかがでしょうか?