近ごろ日本でも誕生している『アルベルゴ・ディフューゾ』 「拡散した・広がった(diffiso )ホテル(albergo)」という意味のイタリア語です。観光で地域の再生や持続可能性を目指す、イタリア発祥の滞在先スタイルです。2019年には、イタリア以外で初めての協会支部となる「アルベルゴ・ディフーゾ・ジャパン」(ADJ)が発足しました。
一般的なホテルが、フロント、食堂、客室などの設備を1か所に兼ね備えているのに対し、アルベルゴ・ディフューゾは、町なかにその役割を分散して担うことが特徴のひとつです。例えば、空き家を客室に、地元のレストランを食堂として利用するなどです。
アルベルゴ・ディフューゾのはじまり、特徴、施設について
はじまり
誕生のきっかけは、1976年のフリウリ地震にあります。il Postによると、震源地はフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州ウディネ北部でした。地震は非常に広い地域で感じられ、中部のローマやフランス、ポーランド、ハンガリーの一部にまで及びました。1,000人近くの方が亡くなり、約10万人が家を失い立ち退きを余儀なくされたと伝えられています。
震災後、この山間の地域では過疎化が進みました。しかし、そこには点在した空き家だけでなく、風光明媚な山岳地や歴史的な東西ヨーロッパの往来により育まれた、後世に遺すべき芸術や文化がありました。
地元カルニア出身の詩人で作家のLeonardo Zanierが、それらを活かした新しいスタイルのホテルを日差しのように分散した「アルベルゴ・ディフューゾ」と造語で表現したことから名付けられました。ALBERGO DIFFUSO COMEGLIANSは、ホテルHPによると、1978年にカルニアに誕生した最初のアルベルゴ・ディフューゾです。
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アルベルゴ・ディフューゾとは
2006年創立、アルベルゴ・ディフーゾ協会の会長ジャンカルロ・ダッラーラ教授は、国立ペルージャ大学で観光マーケティング論の教鞭をとる経済学者です。
1980年代初め、まだ構想は確立していませんでした。研究の結果、2つの柱からなるという考えに至りました。ひとつは、現実的な予算でその土地のリソースを活かすこと。もう一つは、もてなしのスタイルは既存のものに少し手を加えただけのおざなりのものではない、新しいスタイルであるということです。それは、イタリアの文化とイタリア式おもてなしに基づく「made in Italy」 で「オリジナル」である必要がありました。
各国のホテルを研究する中で、そのコンセプトは日本の旅館に影響を受けたと教授は著書『Un modello di ospitalità italiano nel mondo』に記しています。当時イタリアでは、アメリカンスタイルのホテルが増えていました。大規模で全体として機能的で、調度品など画一な客室であるのが特徴です。一方、旅館はそれぞれに違いがありました。しかし、どの旅館にもその土地の文化と歴史に根づいた日本式のおもてなしがありました。それぞれの立地条件やハード面の違いは、ものの考え方、ひいてはお客様へ提供されるサービスをオリジナルのものにしていました。協会は、アルベルゴ・ディフューゾのモデルを次のように示しています。
- 一つの事業者により、経営・管理する
- プロフェッショナルで心のこもったサービスを提供する
- 今まで使われていた既存の建物を利用する
- レセプション、レストラン、バーなど共有スペースを設置する
- 客室はレセプションから200m以内にある
- 人が住む場所にあり、地域の活性に貢献する
- ありのままの環境が守られ、地域の文化に溶け込む
- 地域の特性を活かし、この先も安定したサービスとして提供する
- 地域とその文化を組み合わせた経営をする
こんなところにも!人気の観光地で暮らすように過ごす
協会HPには、イタリア国内70施設が掲載されています。世界的には130施設あるとのことです。VANITYFAIRによると、協会に加盟していないホテルも含めると、その数はイタリアで200近くになります。
BuoneNotizie.itでは、この夏人気のアルベルゴ・ディフューゾを取り上げています。都市から離れた、車でないと行きにくい場所にあることが多いですが、日本からでも比較的訪れやすい人気の観光地にもあります。
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イタリアへいざなう本
全編カラーで20の村のアルベルゴ・ディフューゾを紹介しています。写真集、ガイドブックとして手元に置いていつも眺めたくなる1冊です。
アルベルゴ・ディフューゾをはじめ、地域の資源・魅力を活かした取り組みが町ごとに記されています。
さいごに
人ごみを避けて旅をするという新しいスタイルに「分散したホテル」は合致しました。今、イタリアでは、アルベルゴ・ディフューゾが改めて見直されています。その理由は、単に距離を保てるというだけではないようです。
旅先を遠くから近くに移す。移動に要していた時間を、暮らすようにゆったり過ごすことに使う。点在するホテルの設備やサービスを利用するなかで、旅行者は地域に溶け込み地元の人とつながりを持つようになります。彼らが伝えたかったその土地独自の魅力に、旅行者も価値を見出すようになりました。
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