はじめに
もう4月も終わりですね。4月といえば桜。今年もなかなか盛大にお花見ができるような状況ではなかったかもしれませんが、皆さん桜は楽しめましたか。
日本で桜が咲き始めるころ、ここイタリアでも色とりどりの花が開花していました。たとえば桜の形を思わせるアーモンドや、梅に桃など。
では桜は?ソメイヨシノとは種類が違いますがときどき見かけます。ヨーロッパ各地によく咲いている八重桜や、小ぶりの白い桜など。早いものだと毎年1月に旧市街で咲く木があって、寒桜なのでしょうか。
そして、わたしが暮らすエミリアロマーニャ州にも桜の名所が。でも、本国日本のそれとはちょっと様子が違います。
概して日本の桜並木が「花見」「桜の通り抜け」「夜桜ライトアップ」のように見て楽しむものだとすれば、ここでは食べることが最終目的。そう、サクランボ農園です。
要塞とサクランボの町、ヴィニョーラ
ボローニャのお隣のプロヴィンチャ、モデナにあるヴィニョーラはサクランボの産地として知られていて、中世の要塞を借景に農園の桜並木を見ることができます。
おおよその開花時期は日本の桜と同じく4月初旬ですが、5月以降にだんだんとサクランボの実が採れるようになり、毎年6月頭には収穫祭も開催されます。
先日、仕事の都合でボローニャに帰る途中の通りすがり、日の入り前に農園の写真をすこし撮らせてもらいました。特別な事情を除いた自治体間の移動制限がなかなか解けず満開の時期は逃してしまいましたが、少しは雰囲気をお分かりいただけるでしょうか。
背後に見える要塞は現在コロナウイルスの影響で閉館していますが、そばを流れる川に架かった橋から見た外観はこちら。コンパクトながら可愛らしい旧市街に位置しています。
内部にはこんな美しいマリア像などの壁画か残っているようで、パンデミックが落ち着いたらいつか見に行きたいと思っています。
なぜサクランボが特産品に?
ところでなぜ、サクランボがこのヴィニョーラという土地の特産品になったのでしょうか。ちょっと調べてみました。
① 良質な土壌
まずは何といっても、美味しい果実を育てる土壌です。ここ一帯はもともと近くを流れる河川からの堆積物を含んだ良質な粘土質の土壌が広がっているため、サクランボだけでなく様々な果物の栽培に好条件だったそう。
たとえばリンゴなんかも栽培されていますが、秋に収穫されるリンゴと栽培時期がかぶらないことも、サクランボの生産高が増えた一因のようです。
② 出荷しやすい立地
ヴィニョーラのあるモデナ県(イタリアではプロヴィンチャという単位ですが、仮に”県”としておきましょう)には、北はミラノ、南はローマといった大都市に繋がる高速道路や鉄道駅が整備されています。こうしてボローニャと同じく古くから交通の便が良いことが、地場産業の交易の発展を支えてきました。
たとえばモデナといえば自動車工業。マセラティやフェラーリなど、世界に誇る高級自動車メーカーの本拠地があります。農業ではバルサミコ酢も有名ですね。同じようにサクランボもイタリア全土だけでなく近隣の欧州の国々へ広がっていったということです。
どんな味?
わたしはまだヴィニョーラ産のサクランボを食べたことがないのでわかりませんが、品種や収穫週によって甘さの度合いが変わってくるようです。
たとえばブラックチェリーの一種であるモレッテという品種がヴィニョーラでは代表的なようで、19世紀から欧州各地に流通してきたとのこと。
近隣の町出身の友人いわく、モレッテは味は甘さ控えめでお菓子作りにも向いているらしいです。ルビーレッドの実がなんともジューシーで美味しそうですね。
昨年はこれで手作りのサクランボジャムをお裾分けしてくれたのですが、そのときはヴィニョーラ産とは知らず、ただただ美味しくいただきました。
地元の人は収穫時期になると生産直売所からキロ単位で買って、そのまま食べるだけでなくこうして保存食にもするんですね。もうすぐまた収穫時期になるので、今年はわたしも買いに行きたいと思っています。
おわりに
いかがでしたか。今回はヴィニョーラの桜とサクランボについてお話ししましたが、他にもヒマワリやアーモンドなど、イタリア各地で特産品の畑や果樹園を開花の季節に訪ねれば、広大な土地に広がる満開の花々を楽しむことができます。
目とおなかに二度おいしい、そんなイタリアの片田舎への旅をいつか計画するのも良いかもしれませんね。
参考
- ヴィニョーラのサクランボや観光情報など:Unione Terre di Castelli (イタリア語・英語サイト)
- ヴィニョーラのモレッタについて:Slow Food(イタリア語・英語サイト)
- サクランボの収穫祭(Vignola Terre di Ciliegie)について:Commune di Vignola(昨年は開催が見送られました。今年の開催についてはこちらを)