マーティン・エデン - あらすじ/感想 なぜイタリア・ナポリが舞台なのか

マーティン・エデン - あらすじ/感想 なぜイタリア・ナポリが舞台なのか

ゆうさん

学生時代にローマ・サピエンツァ大学に留学し、シチリア出身マンマが統べる大家族にてホームステイ。今は日系企業で国際提供業務に従事する社会人3年目。イタリアで仕事をする機会を細々と狙っています。サザンオールスターズとサンドウィッチマンが大好き。

今回取り上げるのはあの『マーティン・エデン』です。

この作品に関するレビューは既に出尽くしている状態。また、映画通であれば、イタリア映画ファンでなくとも知っている作品だと思います。

だからこそ、少し違う角度からレビューを書いてみました。ストーリーはありきたりかもしれませんが、なぜ、舞台がイタリア・ナポリだったのか。

あらすじ・背景など

ポイント

  • 原題:Martin Eden
  • 公開年:2019
  • 上映時間:129分
  • 制作国:イタリア・フランス
  • 監督:ピエトロ・マルチェッロ
  • キャスト:ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、カルロ・チェッキ、マルコ・レオナルディ

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ストーリー

ポイント

舞台はイタリア・ナポリ。恐らく20世紀初頭といったところか。

労働者地区で生まれ育った、貧しい船乗りの青年マーティン・エデンは、港で少年を助けたことをキッカケに、彼の姉であり上流階級出身の娘・エレナと恋に落ち、教養に目覚める。

時代が激動する中、無学だったマーティンは、運命の出会いに導かれるようにして文学にのめり込んでいった。彼は作家を志し、独学で夢に向かって突き進むが、やがて生活は困窮する。またあまりにも現実味を帯びた彼の作品は、エレナの理解も得ることができず、作品を出版社に送っては返送される日々が続く。

ところが、絶望に駆られてすべてを諦めようとした矢先、彼の運命は一変する。

ここから先、映画を観る前にネタバレしたくない方は、見出し「制作小話」までスキップしてください。

ついに彼の作品がある出版社の編集者の目に留まり、雑誌の連載としてデビューを飾る。彼は徐々に文壇や上流階級の人々の間でも名を知られるようになり、様々な作品を出版し、遂に上流階級の人となる。

しかし彼の強い自我は強烈な個人主義を内在させることとなり、あらゆる人に対する攻撃的な態度や蔑みなどを向けるようになり、作品を執筆すればするほど彼は孤独や絶望を感じるようになっていく。

エデンがアメリカに旅立つ日、既に長年会っていなかったエレナが現れ、自身の真実の愛を受け入れて欲しいと打ち明ける。しかしエデンは激高。自身を信用せずに離れ、上流階級になった途端に近づいてくるエレナに対し、自身の著作の一節を引用しながら強烈な言葉で罵る。

エレナが車に乗り、去っていく様子を窓からぼんやりと眺めながら、エデンはそのすぐそばを歩く「あの時の青年」の幻覚を見る。それは、エレナと出会った日、彼女への「愛」に胸を膨らませ、借りた本を大切そうに抱えて歩くエデンだった。

自身、そして巨大な世界に絶望したエデンは、ひとり海に飛び込み、誰もいない海に消えていく……。

制作小話

この映画はアメリカの作家であるジャック・ロンドン氏の小説『マーティン・エデン』を映画化したものです。小説版はアメリカ・サンフランシスコを舞台としていますが、映画ではイタリア・ナポリが舞台。場所は違えど、非常に原作に忠実な映画となっています。

また、この映画を観た人は、映像に驚くのではないでしょうか(私がそうでした)。それは、撮影時に用いられたフィルムが、16㎜フィルムという、小型で、比較的低予算なものだからです。

独特の粗っぽさが映像の中に残ることで、現代からエデンたちのいた20世紀のイタリアを振り返るとき、イタリア人でもないのに、とてもノスタルジックな雰囲気を感じることでしょう。

ピエトロ・マルチェッロは、ナポリ郊外のカゼルタ出身の映画監督であり、日本に初めて輸入された作品が、この『マーティン・エデン』でした。非常に哲学的な思想を持っており、ネット上の記事としてあがっていたインタビューでも「エデンやジャック・ロンドンの個人主義に関して」や「映画の在り方」を論じるなど、自らの考えを積極的に展開しているようです。

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レビュー

この物語は、夢や愛について様々な教訓を与えてくれますが、ストーリー展開としては、ありきたりだったように思います。

学のないエデンがエレナと出会い、上流階級を夢見て、苦悩を重ねながらも有名作家になる。そこをピークとして、生活の全てが変わってしまったエレンは、もともと思い描いていた華々しい生活を手に入れつつも、攻撃的かつ破壊的で、愛を忘れ、人を信じることができず、誰も寄せ付けないような存在になっていく。

「サクセスストーリーとその後の凋落」というカテゴリがあるとすれば、この映画をそのカテゴリに入れるでしょう。

ただし、この映画がそれだけでは終わらない輝きを放っている理由は、3つあると思います。それは、①主演がルカ・マリネッリだったから、②「愛」というテーマを持つ作品だから、③舞台を原作のアメリカからイタリアに移したから、です。

それぞれ解説していきます。

1.主演がルカ・マリネッリだったから

作品そのものの評価と俳優の評価をごちゃ混ぜにするのは、あまり良くないかもしれません。しかし、繊細であり粗暴である、エデンの細かい感情の動きを、たった1人で表現しきれるのは、イタリアにおいてルカ・マリネッリしかいなかったのではないか?と、私は思います。

夢を見ていたエデン

エデンは、11歳から漁師として働き、非常に劣悪な環境で育った身でありながら、物事を吸収する能力は高く、そして人に対しての優しさや謙虚さを兼ね備えた青年でした。発される言葉は訛りがキツく、文法もめちゃくちゃで、少し口汚いですが、その眼にはいつも情熱を燃やしており、決してくすぶることのない表情をしています。

彼がエレナと出会い、作家となるためにあらゆる文学、教養を吸収していこうとする姿は素晴らしく、他人の反対や貧困層への蔑みなども跳ね除け、自分の力でめきめきと才能を開花させていきます。

そして出版社に送り続けた作品のうち1つがついに編集者の目に留まり、そこからは飛ぶ鳥を落とす勢いで売れっ子作家に。華々しく上流階級への仲間入りを果たしたエデンでしたが、そのあまりにも強すぎる自我からか、他人を受け入れることができず、誰に対しても攻撃的な態度を強めることになり、孤独を感じることが増えていきます。

孤独を感じるエデン

この時期のエデンは、 親しくしてくれた作家ブリッセンデンが死んだこともあり、孤独により自暴自棄になることが増え、肌は蒼白、表情も虚ろ。心は眼前の人間には一切向かず、常に何かを見つめています。

しかし、そんなエデンも、昔と変わらぬ表情を見せる相手がいました。それが、売れない時代に居候をさせてくれたマリアとエデンの姉・ジュリア。彼女たちの前では、エデンは「あの時の青年」に戻るのです。

①作家として売れる前/売れた後、そして②売れてからの内面の動き。この2つのギャップを恐ろしいまでに豊かで機微に演じ切ったルカ・マリネッリには、脱帽いたしました。だからこそヴェネツィア国際映画祭で名だたる俳優を押さえて主演男優賞を勝ち取ることができたのでしょう

2.「愛」というテーマを持つ作品だから

この物語のテーマは、エデンの「愛」だと思います。

エレナとエデンとの「愛」

エレナとエデンは、お互いに愛し合っていましたが、2人を阻んだのは「階級」という壁でした。上流階級の出身であるエレナと船乗りに過ぎない労働者階級のエデン。エレナは、エデンが教養を得て、とても聡明な男性になっていくことを喜びつつも、周囲の家族や知人の嘲りに耐えることも必要とされました。それは、「言葉もロクにしゃべれない作家志望の船乗り」に恋をしている、というエレナへのレッテルでもあり、ついに彼女はそれに耐えきれなくなってしまいました。エレナは誰よりもエデンを愛していましたが、その愛は打ち砕かれたのです。

同じエデンも、彼女への愛のあまり、エレナが自らの作品への批評に激高したり、自分を蔑む相手に徹底的なまでの批判を繰り返すことを増やしていきます。

2人が別れてもなお、エレナはエデンへの「愛」を密かに胸に抱きますが、人間不信になったエデンはエレナへの「愛」を完全に失い、ひいてはエレナの心を完全に打ち砕きます。階級が許さなかった、といえばそれまでですが、エレナに拒否されたことは、エデンから「愛」や「希望」を奪ってしまったのだと思います。

マリア、ジュリアとエデンとの「愛」

対照的に、エデンが「愛」を忘れなかったのは、先述のマリアとジュリアに対してでした。彼女たちは、エデンがどんなに苦しい時も、売れない時も、無償の「愛」でエデンを支え続けた人たちです。「あの時の青年」のまま、エデンはきっと、彼女たちへの「愛」だけは、決して忘れていなかったのでしょう。

エレナを怒鳴りつけて追い返した後、エデンは窓の外に、「あの時の青年」の幻覚を見ます。それは、初めてエレナから本を借り、エレナへの「愛」に胸を膨らませながら、大切そうに本を抱えて歩くエデンでした。

その瞬間、エデンはあの時の輝きが失われたことを感じたのではないでしょうか。ラストシーンでは彼は海に飛び込んでいきます。恐らく入水自殺をしたのではないでしょうか。

こういった「愛」にまつわるテーマがあるからこそ、「夢や希望」「サクセスストーリーと凋落」の枠に収まらない作品になったのでは、と考えます。

3.舞台をアメリカからイタリアに移したから

ジャック・ロンドンはアメリカの作家であり、この『マーティン・エデン』も彼の自伝的小説としてとらえられています。そして舞台はアメリカでした。しかしこの作品の舞台は、港町のナポリであり、原作とは異なっています。

なぜイタリアにしたのか?という理由は分かりませんが、敢えてナポリを選んだことに、その理由をひも解くカギがあるような気がしています。それは「資本家階級(エレナ)」と「労働者階級(エデン)」の壁を、より克明に抉り取るためだと、私は思っています。

全土統一後のイタリア

多くの方はご存知かもしれませんが、イタリア全土が統一されたのは1870年と、ヨーロッパの中では非常に遅いのです。それまでのイタリア半島は、様々な王国や帝国が領土を奪い合い、支配してきた土地であり、時の王政も異なれば、その土地の言語・文化・生活も全く異なる人々でした。

そんな彼らがある日突然1つの国に統一されたから、イタリア語を喋れ、同じ考え方をしろ、と言われても困難なことは明白で、特にナポリ以南の南イタリアでは、統一後も労働者や農民の反乱が頻発し、政府は統合に苦戦を強いられたのでした。

産業革命の香りがする北部の大都市(ミラノやトリノなど)と異なり、南イタリアは目立った産業もなく、人びとは非常に貧しかったため、労働者は劣悪な環境で働いていました。そして、工場などで働いたとしても、雇い主である資本家と対立することばかりで、労働者はストライキを頻発させて抵抗しました。

こうした現状を打破するために、労働者の中には、社会主義思想的な階級の連帯を強めることを主張する潮流やアナーキズム(無政府主義)に傾倒する意見が出るようになりました。作中でエデンが参加していた集会は、まさしく南イタリアの時代的な背景を表したものです。

(この頃の労働者階級やマルクス思想について的確な指摘を行ったのが、有名な哲学者であるアントニオ・グラムシでした)

階級の差を描きだす

少し話が脱線してしまいましたが、この南イタリアという土地は、資本家階級と労働者階級の差が特に激しかった地であり、こうした対立構造をクリアにするには、とても分かりやすいと言えます。つまりそれをエレナとエデンの関係性に当てはめてみれば、「どれだけ越えようとしても越えられない壁」なのです。

結局のところ、エデンは裕福になって資本主義になったわけでも、はたまた共産主義に傾いたわけでもなく、ただ個人主義的な物事の見方、つまりあまりにも独りよがりで攻撃的な見方しかできなくなります。

わざわざナポリを選んだというのは、非常に奥深いなぁ(最終的な感想が浅い)。

さいごに

ストーリー展開に面白みがある作品ではないかもしれません。それでも『マーティン・エデン』は、一度観ることを強くオススメします。

この129分間は、私たちに、忘れていた何かを思い出させてくれる時間になるかもしれません。

ちなみに、2022年2月時点で、マーティン・エデンが観れるのはU-NEXTとWOWOWのみです。価値のある作品だと思うので、是非鑑賞して、感想をSNSなどで教えてください。

ポイント

  • 原題:Martin Eden
  • 公開年:2019
  • 上映時間:129分
  • 制作国:イタリア・フランス
  • 監督:ピエトロ・マルチェッロ
  • キャスト:ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、カルロ・チェッキ、マルコ・レオナルディ

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※この記事の写真は、全て映画内の映像より

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使っているうちに初めて分かることもありますし、イタリア映画以外にも魅力的なコンテンツがどちらも揃っているため、きっとどちらかは使い続けたくなると思います。

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