これまで私たちは、2016年のイタリア中部地震を中心として、複数の記事(「【最新情報】イタリア中部で地震発生」や「【速報】イタリア中部でM6.4の大地震発生」など)で皆さんにイタリアの地震に関する情報をお伝えしてきました。
しかし、ただ速報として地震が起きた事実を知らせるのみならず、イタリアと地震との関係性を読み解いていく作業も、私たちと関わりが少なくないイタリアを理解する上で大切なのではないか、と考えています。
そこでこの記事では、イタリアと地震の繋がりを国土や対策、その恩恵など、色々な角度から考察してみたいと思います。
1.イタリアという国
イタリアの国土的な特徴
イタリアは、地中海に突き出すような長靴の形をしたイタリア半島、そして周辺の島々(シチリア島やサルデーニャ島など)で構成されています。イタリア半島の北部には、マッターホルンやモンブランなどといった私たちにも馴染みのある山々によって形成された、アルプス山脈が東西に弧を描くようにして国境を形成しています。
また、アルプス山脈が北西部で分岐するようにして、イタリア半島を縦断するアペニン山脈が形成されています。
実はイタリアは日本のように活火山や活動断層が非常に多い国としても知られており、特にイタリア南部では頻繁に地震や火山活動地震が起こっています。
イタリアとプレート
これだけイタリアで地震や火山活動が多い利用としては、地殻(プレート)に大きく関係しています。イタリアは、南側にアフリカプレート・北側にユーラシアプレートがぶつかり合っているだけでなく、東西の海底のプレートの動きも非常に複雑。
だからこそ、地震の多発地帯として知られています。世界全体で見ても、マグニチュード5.5以上の地震の発生数は、世界10位程度となっているようです。
2.イタリアで起きた過去の地震
意外に地震大国
日本では、2016年のイタリア中部地震が起きるまでは知られていませんでしたが、イタリアは非常に地震が多い「地震大国」として知られています。過去に起きた地震の中でも、解くに被害の大きかったものについて、簡単にまとめてみました。
日付 | 場所(震源) | 地震の規模(マグニチュード) | 被害・死傷者 |
2016/8/24 | ウンブリア州 | 6.2 | 260人死亡(8/27時点)、負傷者多数 |
2012/5/30 | エミリア・ロマーニャ州 | 6 | 17人死亡 350人以上負傷 |
2009/1~4, 4/6 | アブルッツォ州 | 6.3 | 300人以上死亡、6万人が避難生活 |
2002 | プッリャ州 | 不明 | ある学校が倒壊し生徒全員が死亡 |
1980/11/23 | カンパニア州 | 6.9 | 2741人死亡。負傷者は、8872人と推定 |
1976/5/6 | フリウリ州 | 不明 | 約1000人が死亡 |
1908/12/28 | メッシーナ海峡 | 7.1 | 震源地が海で大津波が発生し、推定7~10万人が死亡。 近代ヨーロッパにおいて最悪の地震とされている。 |
このように、多くの国民の尊い命が、地震によって失われているのです。
そして、私がこの表を作って抱いた率直な印象は「日本と似ている」でした。もちろん、マグニチュード8以上にまで達するような地震は発生していませんが、一定のスパンで巨大な地震が起きていると言えます。
被害を受けるのは建物
イタリアでは地震によってどのような被害を受けているかを考える時に、まず思いつくのは、建物の倒壊かもしれません。実際、イタリア中部地震では、アマトリチャーナの家屋はほぼ全てが倒壊するなど、壊滅的な被害を被りました。
例えば日本では、国が定めた方針に従って耐震工事などを行っていますが、イタリアでは建物が古いかつ補修が積極的に進んでいるわけではありません。さらに、イタリアの行政の特徴として挙げられる地方分権的な手法のせいで、耐震工事の責任はコムーネや県、州などの自治体によって進められるため、地区・地方・地域で対応に差が出ています。
国内全体の課題も関係しているか
行政側の慢性的な財政問題は、耐震工事の後れにも大きな影響を与えています。何十年に1回しか起きない地震のために、非常に苦しい懐事情の政府が、大量の資金を投じることは、ある意味では現実的ではないのかもしれません。とても受け容れられる状況ではありませんが。
さらに、建築関係の公共事業にマフィアが関与したことによって、多くの手抜き工事がなされているというのです。詳しいことは「【イタリア中部地震】アマトリーチェの手抜き工事疑惑と専門家の10の指摘」の記事でご紹介しておりますので、興味のある方は是非読んでみてください。
3.その恩恵
長年、地震被害に苦しめられてきたイタリア。ではイタリアに住む人達は、こうした自然に対してどのように付き合ってきたのでしょうか。火山・地震といった自然が私たちにもたらしている恩恵についても、考えてみたいと思います。
イタリアと温泉
火山国のイタリアでは、数多くの温泉が湧いています。その歴史は古く、古代ローマ時代では国内に様々な温泉地ができていました。今日でも温泉は、リラックゼーションのスポットとして、人々から愛されています。今日でも人気のリラクゼーションリゾートについて知りたい方は「疲れを癒すリラクゼーション体験!リゾート気分で訪れたいイタリアの温泉5選」の記事も読んでみてくださいね。
イタリアと景観
また、イタリアは山がちな地形が非常に多いこと、光明媚な四季を楽しむことができることは、日本とよく似た点だと言えます。造山活動が活発であったり、プレート同士が働き合っているからこそ、イタリアはこのように美しい山並みや温泉などの利益を享受することができているのは事実です。
イタリアと水
また、どこでも綺麗な湧き水を飲むことができるのも、地震によって生まれた断層のおかげ。眠っていた地下水が、地震を契機とした断層によって突然噴き出すこともあるのだとか。
「水」というテーマでイタリアを考えると、古代のローマ帝国のインフラ整備を思い出すことができます。ローマ帝国は、湧き水とそれが川へ向かう流れを利用して、水道水や下水道の整備を進めました。私たちが良く知っている「真実の口」も、もともとはマンホールの蓋でした。
ローマ帝国がインフラ整備などの面で当時の世界の頂点に立っていたことを言うまでもありませんし、衛生面の向上は発展の要因の一つだと考えられています。
4.地震への対策
最後に、イタリアが過去にしてきた地震への対策にはどのようなものがあるかを考えていきましょう。耐震工事や原子力発電所に関する内容を中心に取り上げます。
耐震工事
成功例:自治体の努力
2016年のイタリア中部地震で、中部ウンブリア州にあるノルチャという町は、震源付近(南東10km)であるにも関わらず、ほとんど被害を受けることがありませんでした。その理由は、国に頼らない、自治体の努力にあるとされています。
人口たった5,000人のノルチャは、これまでにも多くの地震被害を受けており、そのたびに町全体で、積極的な耐震工事が進められていきました。それは、ゴムと金属の板を石材の間に挟む、という耐震対策でした。
また、この地震が起きてからも、ノルチャの防災対策本部には、無料で耐震診断を受けることができるように、検査や手当などをとにかく充実させていると言います。このような地道な努力が、死者0の裏側にあったようです。
失敗例:政府の出遅れ
そして、耐震補強が後回しにされがちなことが、次第に指摘され始めています。実際、イタリア政府は1960年代以降に1500億ユーロ(約17兆円)を地震後の建物建設に充てましたが、防災対応に割かれたのは10億ユーロ(1,200億円)だけとされています(Repubblica紙より)。
耐震工事の例としては、柱やはりの間に、単純な構造のプレートを置くだけでも安全性は高まるという案も出されていました。とにかく、政府と自治体が一体となった、耐震工事に向けた努力が不可欠でしょう。
失敗例:ずさんな手抜き工事
一方、町全体が崩壊し、230人の死者を出したアマトリーチェは、震源から南東約15kmの町です。死者が0だったノルチャとは、かなり違うと思いませんか?
もちろん、政府の対応が遅れたこともありますが、その一方、手抜き耐震工事の疑惑が持ち上がるなど、かなり重大な欠陥が指摘されています。事態は、私たちが日本で考えているよりもかなり根本的なところにあるのかもしれません。
詳細は「【イタリア中部地震】アマトリーチェの手抜き工事疑惑と専門家の10の指摘」の記事で解説しています。
原子力発電所
地震関連の対策で気になるのは、原子力発電所の問題です。
イタリアは国内エネルギー資源が乏しいことから、1950年代から原子力発電開発に取り組み、1980年代初めには4基の発電炉を持っていました。ですが、原子力反対運動やチェルノブイリ事故の影響を受け、1987年の国民投票の結果、原子力施設が閉鎖されました。
21世紀に入り、政府は電気不足などの煽りを受けて原子力発電を再開しようとしましたが、2011年3月の福島第一発電所事故を機に、原子力反対運動が顕著となりました。そして再度の国民投票の結果、原子力開発を断念せざるを得なくなりました。
さいごに
イタリアと自然災害との繋がりを、4つの角度から追いかけてみた記事でした。日本と似たような過去を持つ災害大国でありながら、その対策には多くの違いがみられました。皆さんは、どのように考えるでしょうか?