6月29日の月曜日、アリタリア-イタリア航空(以下、アリタリア航空)が国有・新会社として舵を切ることになりました。イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は、「新たに任命された理事会は、財務省のアドバイザーとともに、新しい事業計画に向けた作業に着手する」と述べ、長年の懸案だったアリタリア航空に関する問題は、大きく動くことになりそうです。
この記事から3回は「"国有化"アリタリア航空」と銘打ち、国有化によって再建に向かうこととなったアリタリア航空について、取り上げたいと思います。
第1回は、アリタリアが背負ってきた過去の負債と、新体制での船出についてです。
過去の負債・汚名を払拭したいアリタリア航空
慢性的にアリタリア航空が抱えてきた問題は、いったいどうしたら解決できるのでしょうか?
新型コロナウイルスの影響によってトドメを刺され、国有化するに至ったこの航空会社は、現時点で30億ユーロ(日本円で約3,000億円)のイタリア政府への負債を抱えており、21世紀以降は、全く持って利益を上げることができない、頼りっきりの体制になってしまっています。
繰り返された公的資金の注入
イタリア政府によって第二次世界大戦末期に創立されたアリタリア航空は、約40年間に渡って、政府の保護を受けながら給料を払い、機材を買い、路線を拡大して、繁栄を続けてきました。各国の大手航空会社は、多くの場合が政府の国策とセットで立ち上げられた経緯から、とにかく国に保護されてきた傾向がかなり強かったのです。日本で言えばJALなども同じ分類になるでしょう。
しかし、ご存知の方も多いかもしれませんが、1990年代から21世紀以降、アリタリア航空は幾度となく経営危機を迎えてきました。問題を抱えていたアリタリア航空には、1993年のエールフランス、2002年のKLMオランダ航空から、2度の経営統合の交渉を受けました。
しかしながら、会社との協調姿勢を全く示さない労働組合は、これらの統合を拒否し、問題は全く解決できず。
ついに2008年には経営破綻に陥り、莫大な公的資金が注入されました。21世紀以降のアリタリア航空の経営危機やコロナ禍については、別記事でも取り上げています。
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【2017年】アリタリア航空、10年で2度目となる破産手続き
うかうかしていられない再建案
新型コロナウイルスの影響で、世界中の航空会社は壊滅的なダメージを受け、一時はほとんどの便が運航できないような状況に追い込まれました。アリタリアの国有化の話もこの期間にかなり進みました。
しかし、航空業界全体に目を向けると、7月に入って、便の運航を徐々に再開するフェーズに入ってきています。実際、アリタリア航空も7月1日からパリ線やロンドン線などのEU圏内国際線を徐々に復活させています。
ジュゼッペ・コンテ首相は、アリタリア航空について「プロジェクト」「新会社」という言葉を使って形容しており、政府の計画としては、国際・国内線ネットワークの乗継強化やイタリアの観光地としての魅力の強化、という点に焦点を当てています。
コンテ首相は、過去に以下のように述べていました。
我々は、業界市場において、この領域を守らなければなりません。なぜならば、イタリアにとって、フラッグシップキャリアがあることは重要だからです。
とはいえ、具体的な再建の話は進んでおらず、他の航空会社も運航を再開している中、うかうかしていられない状況です。再建案の詳細が公表されず、率直に言えば、「アリタリア航空って結局のところ大丈夫なの?」と問いかけたくなってしまいます。
体制の変革が必須
アリタリア航空は先日、上層部・委員会の体制を発表。
社長には、長年、メディア通信業界にて活躍してきたフランシスコ・カイオ(Francesco Caio)氏が就任、また前エミレーツ航空のマネージャーで、アリタリア部門の代表でもあった、ファビオ・ラッツェリーニ(Fabio Lazzerini)氏は、CEOとしてアリタリア航空に残ることになりました。
パオラ・デ・ミケーリ国交省大臣は、今回の再建について、以下のように述べ、全く新しいアリタリア航空を宣言しています。
再建プランは過去にアリタリア航空が行った再建計画とは全く異なります。イタリアの経済回復に貢献する航空会社に生まれ変わるだけでなく、国際的な航空郵送市場の競争に耐えうる会社になるのです。
ニュー・ノーマルに突入していく中、アリタリアに残された時間は多くありません。社内に目を向け、新しい会社として生まれ変わる必要があります。
ただ、これまで労働組合との問題を抱えてきたアリタリア航空が、新体制になったからといって、すぐにリストラやコスト削減をできるとは思えません。新会社を作るだけでなく、組織の大幅な見直しも求められます。
「コロナ禍での改革は簡単ではない」
今回のアリタリア航空の国有化について、交通経済学者のアンドレア・ジュリチン氏は、今後も経済危機が続くと予想されるタイミングで、航空会社を再建させるのはとても難しい、と警鐘を鳴らしています。
イタリア政府の戦略だけでは、現状から抜け出すのは難しいでしょう。新型コロナウイルスの影響で、今年のマーケットの取り巻く環境は、かなり複雑なものになっています。
同氏は加えて、「アリタリアは、今後長い間生き残るには規模が小さすぎるので、結局のところ、大きい航空会社に吸収されない限り、存続は難しいだろう」とも語っています。
確かにアリタリア航空の輸送力は、ヨーロッパのLCCにも大敗している状況です。イタリア航空協会・ENACによると、アリタリアはイタリア離発着便において990万人を乗せました。一方、ライアンエアーは2,860万人、イージージェットは1,470万人と、非常に差があることが分かります。
さいごに
過去の負債にとらわれ、国民からも厳しい視線を浴びせられるアリタリア航空。次回の記事では、実際にアリタリアに向けられている厳しい指摘などについても取り上げたいと思います。
続きを見る【第2回】"国有化"アリタリア航空に対する厳しい批判と擁護の声
参照
- Financial Times『Can renationalisation get Alitalia off the ground?』
- Forbes『Italy Sets New Path For National Airline Alitalia』