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新刊紹介 『ウンベルト・エーコの小説講座 若き小説家の告白』

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はじめに

2017年7月20日に『ウンベルト・エーコの小説講座 若き小説家の告白』が筑摩書房より出版されました。この本は2010年10月5日から3日間、北米アトランタにあるエモリ―大学リチャード・エルマン・レクチャーズの講師としてウンベルト・エーコが計3時間にわたって行った講義をもとにまとめられたものです。

今回は邦訳がでたばかりのこの本と著者のウンベルト・エーコについて特集してみたいと思います。

著者について

ウンベルト・エーコは1932年に北イタリアのアレッサンドリアに生まれ、トリノ大学では哲学者のルイジ・パレイゾンに師事しながらトマス・アクィナスについての論文を書いて1954年に学位を取得しました。

この論文は1956年に『Il problema estetico in San Tommaso』として出版され、以降エーコは哲学・中世美学・記号論・メディア論の分野において世界的知識人として名を知られるようになりました。1980年には小説家としての処女作『薔薇の名前』を発表。この作品は大ベストセラーとなり世界各国で翻訳され映画にもなっています。

それからエーコは2016年の2月に亡くなるまで精力的な執筆活動を続け、緻密で魅力に溢れる長編小説を7つ残しました。

「若き小説家」としてのウンベルト・エーコ

処女作『薔薇の名前』がベストセラーとなってからエーコの小説は世界中から注目を受け、どの作品も好調な売れ行きを見せました。大作家と呼ばれてしかるべきエーコがこの本の中で自らのことを「若き小説家」と呼ぶのはなぜでしょうか?

この小説講座の冒頭はこのように始まっています。

この講義は「若き小説家の告白」と題されています。七七歳にもなろうという作家がいったいなぜ、と不思議に思う人もいるかもしれません。けれどわたしが最初の小説『薔薇の名前』を出版したのが1980年ですから、小説家の仲間入りをしてから実はまだ二八年しか経っていません。それゆえ、わたしは自分のことを若く将来有望な小説家(これまで出した小説はたった5冊、この先五十年かけてもっとたくさんの小説を出すはずの小説家)だと思っています。

このような経緯からエーコは自分をまだ「若い」小説家であるとし、さらには小説家としては「アマチュア」、学者としては「プロ」という自己解釈に基づいて、小説についてエーコ自身が語っていきます。またこのタイトルからは、アイルランドの大作家ジェイムズ・ジョイスの『若き芸術家の肖像』を思い浮かべられそうです。

関連記事(『薔薇の名前』については、こちらの記事でも紹介しています)

右から左へと書く

本書の第1章「右から左へと書く」はエーコの小説を読んだことがある読者にとって非常に興味深い章だと思います。主に『薔薇の名前』『フーコーの振り子』『前日島』『バウドリーノ』『女王ロアーナ、神秘の炎』などの自作小説についての言及があり、エーコが緻密な設計図を描くようにしながらいかに注意深く小説を練り上げていっていたかが分かります。

彼はひとつの長編小説を書くためには早くても2年、長ければ10年近くの年月を費やしています。実際に物語の舞台である場所に何度も足を運んでみたり、物語に登場するものについて精緻な設計図や肖像を描いたりしながら創作活動を行なっていたそうです。

その物語の中を歩き回れるほどに徹底的に、と言って良いでしょう。それを支えているのはエーコが蓄えてきた膨大な知識と、積年の小説への強い憧れであるように思われます。

エーコの博識さが伝わる魅力的な章

続く第2章「作者、テクスト、解釈者」第3章「フィクションの登場人物についての考察」では、『開かれた作品』を始めとするエーコの様々な理論書の中から、読者と作者の関係の問題や、物語と現実の相互浸透の可能性などが語られています。大学での講義を元にしているだけあり、エーコの語り口は他の理論書と比べてやさしげな啓蒙の様相を呈しており、エーコの諸理論自体の導入にも適しているのではないかと思います。

おすすめしたいのは第3章の「アンナ・カレーニナのために泣くということ」の議論です。ここでは物語の可能性を読者に提示し、我々が魅惑的な物語世界に出会ったとき、その可能世界を現実世界と混同してしまうようなメカニズムについて様々な視点から述べられています。

最終章の「極私的リスト」はこの本の前代の半分以上の分量を占めているのですが、エーコの小説に登場するリストや、その他の著名な文学に登場するリストの比較が行われておりエーコの博識に目が眩んでしまうような魅力的で美しい章となっています。

おわりに

ウンベルト・エーコの没後1年以上が経過しましたが、日本ではエーコの著作が翻訳され続けています。彼の訃報が伝わった数日後には『プラハの墓地』が出版され、次いで『ヌメロゼロ』、そして次に邦訳が出たのがこの『ウンベルト・エーコの小説講座 若き小説家の告白』です。

エーコを読んだことがある人もない人も、これまでの読書観を大きく変えてくれるような本ですので、手に取ってみて損はないと思います。また近日中にはエーコの5番目の著作、『女王ロアーナ、神秘の炎』も岩波書店から出版が予定されています。

これを機にイタリアが生んだ知の巨人ウンベルト・エーコの小説にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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編集者N

大学でイタリア文学を専攻。特に現代イタリア文学を中心に研究を行っていく予定。好きな街はヴェネツィア。

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