【必見】イタリアの政治記事を読み解く2つのキーワード

【必見】イタリアの政治記事を読み解く2つのキーワード

編集者N

大学でイタリア文学を専攻。特に現代イタリア文学を中心に研究を行っていく予定。好きな街はヴェネツィア。

はじめに

2018年3月の総選挙の結果を受けて、長い間政治不安に陥っていたイタリア。今年6月1日にようやく数ヶ月続いた政治空白は幕を閉じたが、新政権の動向を世界中が固唾を飲んで見守っています。

日本でも6月以降、イタリア政治の動きが注目されるようになりました。一体、イタリアでは今何が起こっているのでしょうか。今回の記事では、イタリアの政治の動きを分かりやすく解説するとともに、イタリアの新聞を実際に自分で読んでみたいという上級者向けに、知っておくと役立つイタリア語を紹介します。

イタリア政治の動向

 
 
 
 
 
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(マッテオ・レンツィ元首相)

まず初めに、2018年3月の選挙を振り返ってみましょう。イタリアでは、3月の総選挙まではマッテオ・レンツィ首相率いる民主党が第1党であり、左派政権が台頭していました。しかしレンツィ首相が大規模な議会変革を推し進めた結果、大規模な反対運動を招き、自身の進退をも賭けた国民投票で大敗を期し内閣総辞職へと追い込まれました。

さらに、深刻化する移民問題やテロへの不安の中で、イタリア国民の関心は、反移民・反EUを標榜する右派ポピュリズム政党である「同盟」や、インターネットを中心にして立ち上がったポピュリズム政党である「五つ星運動」に注目が集まっていきました。

 
 
 
 
 
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(ルイージ・ディマイオ氏)

そして選挙結果は上院・下院ともに「五つ星運動」が最多議席を獲得、一方で「同盟」属する左派政党が連立では最も多い議席を獲得するという事態に陥り、政党同士の連立次第で、どの政党が政権を握るのか分からないという結果となってしまいました。それから長い間政党同士の駆け引きが続きましたが、最初はありえないと言われていた二つのポピュリズム政党が連立する動きに。

両政権は、政治未経験の法学者ジュゼッペ・コンテを次期首相候補に選出することで合意し、5月28日にセルジヨ・マッタレッラ大統領に閣僚リストを提出しましたが、EU懐疑派が多く閣僚に含まれていることを理由に大統領はリストを却下。一時、大統領は全く別の人物に暫定内閣の組閣を要請する事態とまでなりましたが、ポピュリスト政党側が閣僚人事を見直したことで大統領も合意し、6月1日にジュゼッペ・コンテを首相とする新政権が誕生しました。

(コンテ、サルヴィーニ、ディマイオ三人の会合、コンテ首相のツイッター(@GiuseppeConteIT)より

キーワード1:政党の動き

日本と同様に、イタリアにもたくさんの政党が存在します。そしてその政党の名前は、新聞などでは略称によって示されることもしばしばです。イタリアの政治記事を読もうと思っても、よく分からない略称ばかりで、全然読むことができない。そんな方のために、イタリアの政治記事を読むときに役立つ用語をいくつか紹介していきます。

主要政党

同盟(Lega)

右派ポピュリズム政党。党首はマッテオ・サルヴィーニ(Matteo Salvini)。もとは北部同盟(Lega nord)という名称でしたが、サルヴィーニが北部(Nord)を党名から外し、一躍国民政党へと成長しました。

イタリアの新聞ではLegaと書かれます。表などで略称が使われる場合には、「L」と書かれることが多いです。また、サルヴィーニは6月の連立政権誕生によって、副首相及び、内務相を勤めており、イタリア語ではVicepresidente del ConsiglioやMinistro dell'internoと名前を書かず役職名だけで書いてあることもしばしばです。 

 

五つ星運動(Movimento 5 stelle)

2009年10月4日に人気コメディアンのベッペ・グリッロと、企業家・政治運動家のジャンロベルト・カザレッジョによって結党された政党。党首はルイージ・ディ・マイオ(Luigi Di Maio)。

新聞では、Movimento, i cinquestelle, M5Sなどと表記されます。ディ・マイオもサルヴィーニと同様に副首相を勤めており、経済発展省と労働・社会保障省(産業省)の二つの省の大臣も勤めています。二つの相名の表記はMinistro dello sviluppo economico と、Ministro del lavoro e delle politiche socialiです。

その他の政党

・民主党(Partito Democratico:略称PD)

中道左派政党。現在の党首はマッテオ・オルフィーニ(Matteo Orfini)ですが、前党首・前首相のマッテオ・レンツィ(Matteo Lenzi)の名前が頻出。ポピュリズム政党の台頭により苦しい局面を迎えています。

・フォルツァイタリア(Forza Italia:略称FI)

中道右派政党。あのシルヴィオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)が率いています。一時は同盟(Lega)との連立政権の噂が流れ、フェミニストによる抵抗運動などがみられました。Forzaはイタリア語で「がんばれ」という意味。上院下院合わせて議席数は第4位、欧州議会では第3位で、まだまだ勢いは衰えていません。

・イタリアの同胞(Fratelli d'Italia:略称FDI)

・自由と平等 (Liberi e Uguali 略称:LeU)

連立政権

きみどり政権??

イタリアの新聞では、よく、Governo giallo-verdeという表現を目にします。これは黄緑色の政権というよりも、黄色と緑色による政権という意味だと思われます。すなわち、giallo-verdeというのは、コンテ政権の二大政党である「同盟」と「5つ星運動」のイメージカラーを合わせたものなのです。

「同盟」のイメージカラーは緑(verde:本当は青なのでbluが正しいのですが…)、そして「5つ星運動」のイメージは黄色(giallo)ということで、黄色と緑の政権と呼ばれているのです。新聞でいきなり目にすると何のことか分からないうえに、辞書には載っていないので、覚えておくと安心です。

その他の大臣

その他に、新聞で目にすることが多い大臣の名前を紹介します。

  • 外相:エンツォ・モアベロ・ミラネージ(無所属、元欧州担当相)
  • 防衛相:エリザベッタ・トレンタ(5つ星運動)
  • 欧州担当相:パオロ・サボーナ(無所属)
  • 法務相:アルフォンソ・ボナフェーデ(五つ星運動)
  • 保健相:ジュリア・グリッロ(五つ星運動) 
  • 経済相:ジョバンニ・トリーア(無所属)

キーワード2:移民問題

6月1日に連立政権が発足したのち、わずか二週間あまりで、国際社会を揺るがす事件が発生しました。12日、アフリカから渡航し、民間の救助船アクエリアス号が救出した629人の移民の入国を新政権が拒否してしまったのです。地中海のマルタも受け入れを拒んだため、アクエリアス号は長い間漂流を余儀なくされ、17日に、唯一受け入れを表明したスペインに到着しました。

また8月末にはシチリア島で沿岸警備隊の船「ディチョッティ (Diociotti)」の船に乗せられたまま、移民150人が港で足止め状態に。イタリア政府は、EU加盟国に、受け入れを分担しなければ、EUへの拠出金を減額すると警告しました。新聞では、Nave Diciotti(ディチョッティ船)、やLa cosa Diciotti(ディチョッティの事柄)といった言葉が移民問題を語るときに散見されます。

しかし現況においてイタリアだけを責めるべきではありません。移民受け入れに関して規定しているダブリン規約(Convenzione di Dublino)では、EU加盟国のうち最初に難民が最初に入った国で申請をしなくてはならないとされています。すなわち、この規約では、イタリアやスペインを始めとする地中海沿岸諸国の負担が大きすぎるという問題があるのです。

こうしたEU内での格差や不平等に対する怒りが、今のイタリアの情勢を突き動かしているのです。確かに、今、イタリアが移民に対して行なっている措置は、国際人道的に見ても決して看過することのできないものです。

しかし、EU全体でこうした不平等の問題の解決に向けて取り組んでいかない限り、怒りや悲しみが伝播していくばかりだと私は思います。

おわりに

いかがでしたでしょうか。イタリアの政治・経済は今も絶えず変化し、そしてまだまだたくさんの問題を抱えています。少しずつですが、また別の機会に紹介できたらと思います。

イタリアの新聞を読んでみたくなった方は、まずはネット記事がおすすめです。

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