『暗黒街』という、日本ではあまり注目されていませんが、個人的にはかなり好きなイタリア映画を取り上げ、紹介したいと思います。この記事は、映画を観た後、もしくはネタバレもオッケーという方に読んでいただく記事です。
こんな映画です
- これまでにない、ダークな世界観がすごいイタリア映画
- ピエルフランチェスコ・ファヴィーノの演技に注目です
- 多重構成なストーリーを見逃すな!
映画情報
・公開年:2015
・制作国:イタリア
・監督:ステファノ・ソッリマ
・出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、クラウディオ・アメンドラ、エリオ・ジェルマーノ、アレッサンドロ・ボルギ
ネタバレがない紹介記事も用意しております。
続きを見る【ネタバレ無】『暗黒街』ローマの利権争いを描いたイタリア映画
ノワール映画『暗黒街』について
あらすじ
堕落した与党の大物議員であるフィリッポ・マルグラーディ。彼は開発整備法の法案を成立させ、イタリアでのカジノ計画を目論む、悪徳政治家です。
委員会の後、彼は日課である売春婦との密会のため、いつものように高級ホテルに向かった。悦楽に溺れた時間を過ごした後、彼が買った未成年の娼婦が、ドラッグの過剰摂取によって死亡してしまう。
この事件をキッカケにし、カジノ計画に伴う利権争いは、地元の悪党同士の血で血を洗う殺し合いに。敵対するアダミ家とアナクレーティ家のファミリー同士の戦いから、それを収めて利権を得ようとする、伝説の人物・サムライ。それはやがて、政治家、犯罪組織、教会をも巻き込んだ大きな抗争へと発展していくことになる...。
監督やキャスト、見どころについては、ネタバレ無しの記事にて紹介しているので、ここでは割愛いたします。
原作は映画ではなく小説!
この映画は映画オリジナルではありません。2013年に発売された、ジャンカルロ・デ・カタルド(Giancarlo De Cataldo)とカルロ・ボニーニ(Carlo Bonini)の小説『スブッラ(Suburra)』という作品をベースにして制作されたのがこの映画です。
スブッラ(Suburra)とは、スラム街や悪名高い地区という意味があり、その他にも、古代ローマ時代には、ローマのケリウスとエスクィリヌスの丘の間の貧民街のことを指しており、この地区が由来となっています。
ちなみに、2015年のこの映画の後に作成された、Netflixオリジナルドラマである『暗黒街-Suburra-』は、世界観は全て共有していますが、実際の内容はけっこう異なっているようです。
ストーリーについて
多層的な構成
冒頭に同時発生的に起こる、いくつかの出来事が、最終的に1つのことがらに収れんしていくような展開になっていますね!
- ローマ教皇が退位したいと告げる
- マンフレディが売春婦を(故意ではないが)死なせてしまう
- セバスティアーノの父親がサンピエトロの近くの橋で身投げし、自殺してしまう
これらの事件が、同じ日に起き、そこからストーリーが展開していきます。それぞれ別の場所で起きたはずの事件なのに、実はそれが1つの「オスティアのウォーターフロント計画」に繋がっていきます。
このストーリー展開はけっこう好きでした。ただ、そうすると、シーンがどんどん切り替わるため、見逃すことができませんね。
後述しますが、至る事件に首を突っ込むサムライの存在感は特にすごいですね。
11月12日は一体なんなのか
アポカリプスまで、あと○日...
というのが、ストーリーを追うごとに出てきました。1日ずつ話が進んでいくことを示すものです。このアポカリプス・デイが2011年11月12日なのですが、この日は一体何の日なのでしょうか?
11月12日は、イタリアのあのベルルスコーニ首相が退陣を表明した日です。彼は新予算案が通過した後、一度政界を引退することになりました。
イタリアのベルルスコーニ首相は12日、議会が財政安定法案を可決したことを受けナポリターノ大統領に辞表を提出、受理された。同首相の辞任を求めてローマ中心部に集まった数千人の市民は、スキャンダルにまみれたベルルスコーニ政権の崩壊を祝った。
ロイター通信『ベルルスコーニ伊首相が辞任、モンティ新内閣発足へ』
エンディングでフィリッポ・マルグラディがかき分けていたのが、このローマ中心部に集まった数千人の市民で、そして叫ぶフィリッポを横目に車に乗って去っていったのが、おそらくベルルスコーニ首相です。
続きを見る【映画】『LORO 欲望のイタリア』この国は、誰のものなのか
ちなみに、同じ2011年にベルルスコーニは、未成年者売春罪と職権乱用罪で起訴されています。この辺りも、実際にフィリッポがこの映画内で行ってきたことと、ほぼ同じ内容ですね。だからフィリッポはラストシーンで、自分が再選されず、検察の捜査で権力を失うことを何よりも恐れています。
いや、どんどん死に過ぎでは...?
この映画はひたすらに人が死んでいきます。ちょっとまとめてみました。
- 20年間経って出所した元サムライの仲間・バカロッツォ(サムライの暗殺)
- ドラッグを過剰摂取した未成年娼婦(事故死・フィリッポが関与)
- セバスティアーノの父親(自殺・アナクレティ家に多額の借金)
- スパディーノ(アウレリアーノの暗殺)
- アナクレティ家の2人(アウレリアーノの恋人・ヴィオラの暗殺)
- アウレリアーノ(サムライの暗殺)
- マンフレディ(セバスティアーノの暗殺)
- サムライ(ヴィオラの暗殺)
主要人物のほとんどがいなくなり、物語は終わりを迎えます。さすがノワール映画だけあって、虚無的、退廃的で救いようがないエンディングです。
ただ、途中から暗殺の手法が雑になり、予定調和的に死なさせられた人物が多かったように思います。例えばアウレリアーノ。確かにヴィオラの件でサムライに盾突きましたが、ここまで直接的にサムライに殺されたのは正直興ざめでした。
というのもサムライは、自分が手を下さず、ひっそりと暗殺や恐喝を仕掛けて、間接的に自分の思い通りにしてしまう様が怖さを引き立てているのです。その分、オスティアの土地問題があったにせよ、あっさりサムライが人を殺し、アウレリアーノがフェードアウトしてしまったのは悲しかったです...。
その一方で、サムライもヴィオラにあっさり殺されてしまったのも、残念でした。それも映画に漂う虚無感を表現する1つかとも思いましたが、この幕引きはかなりいただけません。
ヴァチカン、これだけ...?
正直、ヴァチカンの存在感があまりにも薄すぎたのにはガッカリしました。最初にローマ教皇が生前退位を決意し、そこからヴァチカンの周囲でもストーリーが動くかと思いきや、登場した機会はほとんどありません。
ヴァチカンとサムライの関係、ヴァチカンとオスティアの関係というのは、もう少し丁寧に描かないと、何を言っているか分からないと思いました。原作には教皇の辞任に端を発したいざこざなどは一切書かれていないそうなので、それであれば、この部分は、あまりいらないのでは、と感じます。
一方、Netflixのオリジナルドラマでは、かなりローマの枢機卿や土地など、ヴァチカン関係のあれこれがかなり登場しています。
サムライがあっさり死んだ件と、ヴァチカンの存在感が薄かった件は、おそらく放映時間の都合上、カットしないといけなかったとか、制作サイドの都合で、ちょっともったいなくなってしまっているのでは?と思っています。
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強烈なキャラクターたち
サムライの圧倒的な存在感
この物語で誰もが思うのが、「サムライって一体何者?」という問いです。サムライは突然、街の権力者として詳しい説明もなく登場して、彼の行動・発言から、どんな人物かを探っていく必要があります。
- オスティアの再開発・カジノ計画に大きく絡んでいる
- ローマのファミリー達の抗争をけん制できるだけの権力を持っている
- ヴァチカン内部に強力なツテを持っており、意思決定に関与している
- 大物政治家であるマルグラディとも結びつきを持っている
- 南部の犯罪組織(マフィア?カモッラ?)と繋がりを持ち、彼らから指示を受けてローマを牛耳っている
- 長年ローマを牛耳ってきたが年をとってきた
こうした彼の行動から、サムライはローマのドン的な存在であることが分かります。
実は、この映画では描かれていませんが、彼は、1970-80年代に暗躍した極右系の犯罪組織・マリアンナ団(Banda della Magliana)の、最後の生き残りとされる人物です。
このマリアンナ団は実在するローマの犯罪組織で、ローマの人に聞いてみてまず知らない人はいないと思います。おそらくこの時代に培った人脈・ツテを活かして、ローマを陰で支配しているようです。
続きを見るイタリアにもテロの時代があった。極左組織「赤い旅団」の恐怖に迫る。
物静かな話し方と目を逸らしたくなるような鋭い眼光が印象的。常に冷静沈着で、殺人も容赦しません。そんな彼でさえも、最後はあっけない死を迎えるわけです。
アウレリアーノとスパディーノの関係性
売春婦の死体処理を任されたスパディーノは、処理後、政治家のフィリッポ・マルグラディに対して「この件をバラされたくなかったら、俺にも何か儲かる事業に一枚噛ませろ」と、ゆすりをかけます。
困ったマルグラディが、別の政治家に「何とかして欲しい」と頼み、その政治家が送り込んだのがヌメロ・オット(Numero Otto)ことアウレリアーノ。
それぞれ別のファミリーの構成員ですが、お互いは既知の間柄のようで、ちょっとだけ親しげともとれる話し方をしていました。しかしスパディーノが、事業に参画しようとしていると知った途端、アウレリアーノは、即座にナイフを取り出しスパディーノの首を一刺し。
それほど仲が悪そうには見えなかったのですが、このスパディーノのあっさりとした幕引きにはビックリしました。もっと長い絡みがあると思っていたので...。
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不憫でたまらないセバ
久しぶりに会った父親は、ヴァチカンの目の前の橋からテヴェレ川に身投げして自殺。喪に服しているセバスティアーノのもとに、マンフレディ・アナクレティが「父親が借りていた数百万の借金を返すように」と脅します。
セバはストーリーの途中まで不憫でたまりません。マンフレディに脅されたり、住居侵入や誘拐など犯罪の片棒を担がされたり...。エリオ・ジェルマーノの演技力も相まってですが、とにかく常に犯罪組織に怯えています。性格的にも、お金持ちだけれでも神経質で小心者な人物として描かれていました。
ただ、セバが約束を果たしたにも関わらずに、自分の家を返してもらえない、となった時から、彼のマンフレディに対しての態度は豹変します。これまでは怯えてばかりでしたが、アナクレティ家で急に声を荒げ、盾突き、しまいには殴り掛かります。もちろん、このあとセバは10倍くらいボコボコにされました(笑)
しかし、この後セバはマンフレディが自宅に帰って来たところで殴り掛かり、気絶させた隙に、手足を縛って猛犬のいる檻に入れました。目を覚ますと、猛犬に噛みつかれうめき声をあげるマンフレディ。きっと彼は死んでしまったのでしょう。
小心者だったセバが、恐怖のあまり何かのリミッターが外れ、強力なファミリーのボスを殺してしまったのは、私にとっては非常に印象的なシーンでした。このシーンは、マッテオ・ガローネ監督のイタリア映画『ドッグマン』のマルチェッロとシモーネにも通じるところがあると思いました。
さいごに
こんな映画です
- これまでにない、ダークな世界観がすごいイタリア映画
- ピエルフランチェスコ・ファヴィーノの演技に注目です
- 多重構成なストーリーを見逃すな!
映画情報
・公開年:2015
・制作国:イタリア
・監督:ステファノ・ソッリマ
・出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、クラウディオ・アメンドラ、エリオ・ジェルマーノ、アレッサンドロ・ボルギ
ネタバレや映画の感想も含めつつ、イタリア映画『暗黒街』を紹介させていただきました。この映画が気になった方は、アマゾンプライムやU-NEXTなどのVODサービスで、今すぐ視聴することができますよ。
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