イタリア文学に興味はおあり...?
イタリアの文化や教養的側面を語る上で、必ず外すことができないのがイタリア文学です。文学というちょっと難しいイメージがある方もいるかもしれませんが、必ずしもそうとも限りません。現在使われているイタリア語の由来となった本を書いたダンテや、中高の教科書で誰もが聞いたことのあるであろうボッカチオ、『ピノキオの大冒険』など...イタリア文学を代表する名作家と名作たちを追いかけていきましょう。
あなたの世界を彩るイタリア文学名著10選
1.ダンテ『神曲』
イタリア語原題:La Divina Commedia
14世紀初頭に成立したダンテの長編叙事詩。地獄編・煉獄編・天国編の三部から成っています。詩人ウェルギリウスや恋人ベアトリーチェに導かれ、作者自身がこの三界を巡るという物語です。
中世のキリスト教の世界観を集大成した作品で「地獄では串刺しにされて炎で焼かれる」というようなイメージは、この『神曲』から生まれています。またダンテはこの作品をそれまで使われていたラテン語ではなくトスカーナ方言で記し、これはイタリア語の祖となったため、ダンテは「イタリア語の祖父」とも言われています。
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2.ペトラルカ『カンツォニエーレ』
イタリア語原題:『俗事詩抄』(Rerum vulgarium fragmenta)
14世紀半ばに成立した詩集で、恋人ラウラへの愛を主題とし、後世のヨーロッパの抒情詩に大きな影響を与えた作品です。文学に「悩める自我」を最初に持ち込んだ作品としても有名。彼は子供のころからウェルギリウスやキケロなどの古典に心酔し、父から望まれていた法学の勉強をおろそかにして、ラテン文学を読みふけったそうです。
ちなみに、彼は父に秘密でこれらの書物を隠しておいたのですが、ある時に見つかって大目玉を喰らい、目の前で焼かれ、絶望を味わったという話もあります。
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3.ボッカチオ『デカメロン』
イタリア語原題:Decameron
14世紀半ばに成立した作品。フィレンツェの3人の青年と7人の淑女が、ペストを逃れて郊外の別荘に避難し、1日1話を10日にわたり順番に話していく物語です。内容は笑い話、お色気、悲劇、皮肉と多岐に及びます。
ダンテの『神曲』と対比して“人間臭い”この物語は別名「人曲」と呼ばれ、ヨーロッパ散文小説の模範となりました。この10人の若者たちは別荘に逃れる前、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会に落ち合います。この教会はフィレンツェの中央駅から徒歩5分ですので、フィレンツェを訪れた際には行ってみるのもいいでしょう。
4.マンゾーニ『いいなずけ』
イタリア語原題:I promessi sposi
1827年発表の歴史小説。1620年代末にスペインの支配下になっていた北イタリアのコモ湖近くの村が舞台です。許嫁の青年レンツォと娘ルチアとが結婚しようとするのですが、横暴な領主ドン・ロドリゴがルチアに目をかけ、臆病な司祭ドン・アボンディオを脅迫して式を挙げさせようとせず、ルチアの母はそれを弁護士に訴えるが…。
マンゾーニはこの作品の第2版を出版するにあたり、フィレンツェの人々の日常語を取り入れ、イタリア国家統一運動(リソルジメント)の傍らで、近代イタリア語の成立に寄与しました。
5.カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』
イタリア語原題:Le Avventure di Pinocchio
1883年発表の児童文学作品で、多くの人にディズニー映画で知られているイタリアの文学作品です。ジェッペットおじいさんによって丸太から作り出された操り人形のピノッキオは、いたずらの限りを尽くしますが、サメに襲われたおじいさんを助け出したことで、仙女の手によって人間の子供へと生まれ変わります。
実はこの作品、元々はコッローディが借金返済のために書いた新聞小説でした。また本来の結末では、ピノッキオは、彼がもらった金貨に目のくらんだ猫とキツネによって騙され、殺されて木に吊るされるという残酷な最期を迎えています。しかしこれに対して読者から非難が殺到し、コッローディは結末を変更したというエピソードがあります。
6.デ・アミーチス『クオーレ』
イタリア語原題:Cuore
1886年発表の児童小説。タイトルはイタリア語で「心」を意味する言葉です。12歳の小学生エンリーコの目を通して描かれる学校生活が中心となっています。統一を果たしたイタリアが、国家を建設していくことに全力を注いでいた時代の姿が語られ、少年少女の愛国心を育むことを意識して記されました。
作中のお話しである「アペニン山脈からアンデス山脈まで」は、少年マルコがアルゼンチンにいる母に会うために旅をするという物語で、日本では「母をたずねて」という名前で知られ、アニメを見たという人もいるでしょう。
7.ダンヌンツィオ『死の勝利』
イタリア語原題:Il trionfo della morte
1894年発表の小説。快楽主義者の主人公ジョルジョ・アウリスパがイッポリタという女性との恋愛に惑溺して,次第に自分の感覚までも疑い,最後には死のみが女の情熱に勝利しうると悟って,イッポリタを海岸に誘い出し,彼女を抱いて海に沈むという物語です。
全般にニーチェの超人思想の影響が色濃く表れています。ダンヌンツィオは作家としてのみならず活動家としても有名で、第一次世界大戦後、当時ハンガリーの支配下にあったフィウメを、義勇軍を率いて占領するという大胆な行動に出たこともありました。
8.ディーノ・ブッツァーティ『タタール人の砂漠』
イタリア語原題:Il deserto dei Tartari
1940年発表の小説。青年将校ジョヴァンニ・ドローゴは、ある日辺境に位置するバスティアーニ砦への赴任を命じられます。しかし、攻めてくれであろうと言われていたタタール人はその動きを一向に見せず、ジョヴァンニを待っていたのは退屈に埋もれて過ごす毎日でした。きっと明日にはタタール人が攻めてきて、勇敢に戦って、英雄になれる――一人ぼっちの寝床で、来る日も来る日も彼は青年らしい憧れを持ち続けるが…。
後述のイタロ・カルヴィーノと並んで20世紀イタリア文学を代表する作家として名高い彼。その幻想的で不条理な作風から「イタリアのカフカ」とも呼ばれており、また『七人の使者』などの短編小説も有名です。
9.イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』
イタリア語原題:Se una notte d'inverno un viaggiatore
この本は30ページほど進んだところで同じ文章を繰り返し始めます。思わず本屋へ行って交換してほしいと思うでしょう。しかし、あなたが読んでいたのは『冬の夜ひとりの旅人が』ではなく、まったく別の小説だったのです。
書き出しだけで中断されてしまう小説の続きを追って、あなた=〈男性読者〉と〈女性読者〉の探索が始まります。またカルヴィーノは第2次世界大戦の末期にパルチザンとして戦った体験があり、その経験をもとに長編『蜘蛛の巣の小道』(1947)を書いてデビューした作家です。
10.ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
イタリア語原題:Il Nome della Rosa
1980年発表の小説。1327年、教皇ヨハネス22世時代の北イタリアのカトリック修道院を舞台に起きる怪事件の謎を、フランシスコ会修道士バスカヴィルのウィリアムとベネディクト会の見習修道士メルクのアドソが解き明かしていく物語です。
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1986年にはフランス・イタリア・ドイツ(西)によって映画化され、主演はショーン・コネリーが務めました。ウンベルト・エーコは記号学者としても有名で、他にも数々の論文や作品を発表しましたが、昨年2016年2月に亡くなられました。
さいごに
イタリア文学に興味のある皆さん向けに、有名な作家・本を10つ取り上げてみました。いかがでしたか?イタリア文学に触れながら、是非自分の世界を拡げてみてください。
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