日本人が知っているイタリア語、イタリア人が知っている日本語にはどんなものがあるでしょうか?前者であれば「ボーノ(美味しい)」や「ボンジョルノ(こんにちは)」や「スパゲッティ」、後者であれば「ありがとう」「さよなら」「まんが」など、あいさつなどに代表される初歩的な単語が思い出されます。
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しかし、日本に詳しい人はもちろんのこと、あまり日本のことを知らない若者や、それ以外の年代の人たちでも「なんでこんな単語を知ってるの?!」と驚いた経験は多々ありました。
どれもイタリアで広まり始めたというよりは、欧米で広まる中でイタリア人が知るようになった単語なようです。本記事ではその中でも、特に「興味深いな」と私が思った日本語の単語を3つ取り上げたいと思います。
イタリア人が知っていて驚いた日本語3選
1.Hikikomori:引きこもり
これまでは日本特有の文化としてイタリアでは取り上げられてきました。ですが最近は、どうもイタリアでも似たようなことが社会問題として注目され始めているのです。
日本の厚生労働省は、引きこもりの定義を以下のようにしています。
「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を「ひきこもり」と呼んでいます。「ひきこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではなく、様々な要因が背景になって生じます。ひきこもりのいる世帯数は、約32万世帯とされています。
ご存知の通り、引きこもりには様々な要因があり、多くの研究者の方が議論されているため、その辺りについてのことは控えさせていただきます。
ただ、イタリア人たちは私に「引きこもり」という現象を尋ねる時、何か「遠い日本で起きていること」という枠を出ない解釈をしているなと思ってきました。つまり自国(イタリア)とは関係ないという理解です。
しかし最近になって、その流れが変わりつつあります。
Google Newsで「Hikikomori Italia」と検索すると、本当にたくさんの記事を読むことができます。2013年からWebサイトHikikomoriitalia.itを設立し、情報発信や親子との対話を熱心に行っているマルコ・クレパルディ氏は、彼のサイトにて、「イタリアには少なくとも10万人の引きこもりがいると考えられる」と言及しています(リンク)。
ローマ大学教授フランチェスコ・マッティオーリ氏のように、比較的事態を楽観的に見ている人もいれば(リンク)、クレパルディ氏のような人もいます。
かつてホームステイ先のマンマが、日本の引きこもりの多さに対して「日本の若い人は少し気合いが足りないんじゃないのかしら?」という考えを述べてくれたことがあります。正解は分かりませんが、今後、日本以外のさらに色々な地域で、引きこもりの研究は進んでいくと推測しています。
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ちなみに一般論として「南に住む人は気性がオープンになる」とか「北の人は寒くて部屋に引きこもっているから暗い」とか、そうゆう類のことを話すイタリア人は一定数いるため、その辺りは「引きこもりがイタリアにやってくるわけがない」と思っている人は多くしているのでしょう。
ですが、こうしたフランスの哲学者モンテスキューの「気候は性格に影響する」という理論は、イタリアの歴史家のルッジェーロ・ロマーノ氏にキッパリと否定されています。
2.Kamikaze:神風
イタリアにおいて放送された、自爆テロのニュースに関して、「神風」という単語があてられていたことは、私にとってはかなり衝撃的でした。
日本では神風といった場合、元寇の際に台風(神風)が吹いたことで元軍が退却し、日本は攻められずにすんだことから、神が吹かせてくれた風、奇跡をよぶ風という意味に由来しています。その他には、第二次世界大戦時の連合軍に対する日本軍の捨て身の部隊である「神風特攻隊」が連想されます。
そしてイタリアや欧米では、その神風特攻隊から転じた意味で理解されているようです。イタリア語では「向こう見ずな人」というだけではなく「テロリスト、ゲリラ戦士」という意味になっています。
実際、2018年5月14日に起きた、インドネシアでの家族5人自爆テロのニュース動画に対しても、イタリアの大手メディアTG5は「Nuovo attacco in Indonesia: le immagini del kamikaze in azione su una moto-bomba(インドネシアで新たな攻撃:バイクでの爆撃行為による神風の映像)」という見出しをつけています(リンク)。
ここでの「kamikaze」は自爆テロの意味で、以後事件を報じたリベラシオンやル・フィガロといった代表的な仏紙、BFMTVなどのニュース専門チャンネルでも同じ使い方が確認できる。
日本のいくつかのネットメディアやブログでも「海外では神風を自爆テロという意味で使っている」ことを伝えており、日本人の感覚からすると、何となくですが違和感を覚えるところではあります。
しかしとどのつまり、単語の意味・解釈は時代とともに変化していくものです。神風という単語が、本来の意味から離れて海外で流布していることも、また仕方ないと言えるかもしれません。
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3.Hentai:変態
日本語の本来の意味における変態とは「普通の状態と違うこと」「異常・病的な状態」などが、「変態性欲」的な意味も包括する形で使われるようになりました。
この変態という単語がイタリアに広まったのには、インターネットとの深い関係があるようです。インターネットの普及とともに、徐々に広がっていったアダルトサイトや、海賊版のアニメ・漫画などを販売するサイト。そういったサイトに掲載される宣伝文句、もしかサイトそのものの広告において、「Hentaiの○○」といった呼び名とともに性的な写真や動画などが使われるようになりました。
その結果、アニメや漫画に詳しくない人々は、こうした日本漫画(ひいては日本人まで!)の性的嗜好について「Hentai」という一括りの言葉で形容したようです。こういった「変態」という単語の使い方は、日本のものと比較的似ているのかもしれません。
ただ私自身、アニメや漫画にはそこまで詳しくないのですが、そういった部分への嗜好を尋ねられ、かなり困ったこともあります。これは「海賊版で当時出回ったアニメ・漫画の多くが、変態っぽい性的嗜好に基づいたものだった」「素晴らしいアニメ・漫画が生まれた国に住む日本人なら、みんなアニメ・漫画が好きに決まっている」といった辺りが混ざり、日本人の多くはアニメや漫画的な変態嗜好を持つ、という部分に繋がったのかもしれません。
この辺りのことは、具体的な研究者やニュース記事もなく、私もアニメや漫画に疎いため、私がイタリアで過ごした中で感じたことを中心に書きましたが、はてさて、本当のところはどうなのかは分かりません。
イタリア語版Wikipediaの「Hentai」の項目にも、どのようにして変態という単語が広まっていったのかや、アニメや漫画においてどういった状況を変態と指すかという、いわゆる「変態の類型」に至るまで、非常に詳細な記述があることが特徴的です(リンクは貼りませんので、気になる方は調べてみてください)。
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さいごに
いかがでしたか?3つの単語どれも、非常に特徴的で、留学中に「なぜこんな単語を知っているの?」と驚いたことは何度もありました。ただ、これもある意味では、日本文化の伝播ともいえるところで、一概に「良くないことだ!」とか「日本の恥だ!」とか主張できないところです。
今後イタリアへ留学される方は、こういった点にも着目してみると、よりイタリアや日本に対する視野が広がるかもしれませんね。