2020年6月にイタリア政府によって国有化されたフラッグシップ・キャリア、アリタリア-イタリア航空(以下、アリタリア航空)。
前回までの記事(第1回/第2回)では、アリタリア航空の変革の必要性やコロナ禍の影響、さらにはアリタリア航空に対する批判の声などを紹介いたしました。
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【第2回】"国有化"アリタリア航空に対する厳しい批判と擁護の声
この記事では、LCC(格安航空会社)と絡めた、アリタリア航空に対する厳しいまなざし、LCCの努力について、取り上げます。
アリタリア航空に対するLCCからの強い批判・指摘
ライアンエアー、EUに異議申し立て
ヨーロッパのゲームチェンジャー・ライアンエアー
今やヨーロッパを代表するLCCにまで成長した、アイルランドに本社を持つライアンエアー(Ryanair)。
徹底的なコスト削減や機材繰り、運行スケジュール管理などで、格安ながら相当の収益を上げ、ヨーロッパの航空業界の見取り図を書き換えてしまった航空会社です。
CEOのマイケル・オレアリー氏は、歯に衣着せぬ発言で知られ、他航空会社に対する厳しい批判・指摘は、たびたびニュースとして取り上げられてきました。これまでライアンエアーは、アリタリア航空の再建についてかなり厳しく批判してきましたが、ついに7月2日には、今回の国有化の件で、EUに異議申し立てをする決定を下したようです。
ライアンエアーの主張
ライアンエアーの主張は、「アリタリア航空に対する資金投入のために、他の航空会社が支払う税金が上がることは、あってはならない」というものです。
具体的には、もし本当にアリタリア航空に対して30億ユーロの公的資金を注入するとなれば、空港使用税や利用料の諸税金が高騰するのは間違いない。そうなれば結果的に、アリタリア以外のイタリアに離発着する全航空会社が迷惑を被ることになる、とのこと。
そして、アリタリアが勝手に不採算の便を飛ばして、儲からないビジネスモデルを作っただけなのに、なぜ別の航空会社が結果的にその負債を負担しなければならないのか、と強い不信感を抱いています。
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フラッグシップ・キャリアに比べてバックアップが圧倒的に少ない中、独自のビジネスモデルを作り上げてきた自負があるライアンエアー。一方、政府の支援を受け続けては利益をほとんど上げられないアリタリア航空。そんな会社が自分たちに不利益を与えるのが、許せないのでしょう。
ウィズエアーも追随して批判
新興LCC ウィズエアー
もう1つの航空会社を紹介しましょう。ハンガリーのLCC・ウィズエアー(Wizz Air)です。ライアンエアーに比べて知名度は低いですが、東・中央ヨーロッパなどで実績を作り、近年は徐々にビジネス戦略をヨーロッパ全体に向けています。
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私も、チェコのプラハからヴェネツィアまで向かう便に搭乗しましたが、片道なんと15ユーロ。ライアンエアーと同等かそれ以上にオトクなLCCとして、注目を集めています。
このウィズエアーのCEOヨーゼフ・ヴァラディ氏が、イタリアのメディアのインタビューに答え、コロナ禍での航空業界や、自社の拡大戦略、さらにはアリタリア航空について語ったインタビュー記事で、いくつも興味深い発言をしています。
ウィズエアーの主張
まず、アリタリア航空などのフラッグシップ・キャリアが、新型コロナウイルスの影響で、大量の資金注入が必要になったことについて、こうした金銭的なサポートを受けて我々のような高収益な会社と競争をするのは、市場の原理をぶち壊すことに繋がる、として、厳しく批判。
また、アリタリア航空を名指しして、以下のようにさらに痛烈な批判を浴びせています。
ー30億ユーロの資金注入について
「お金の無駄遣いだし、航空市場、イタリアという国、ひいては国民にとって、何もよい結果を生み出さないと考えています。実際、他のキャリアの方が、より良いサービスを提供できているから、イタリアはアリタリア航空を求めてはいない。もし国民がそれほどまでにアリタリア航空を必要としていたのなら、もっと航空券が売れていたはずではありませんか。」
ー国のインフラや輸送力の観点から、フラッグシップ・キャリアも必要だという意見について
「それはナンセンスで、全くもって事実ではありません。我々がいい例でしょう。かつてハンガリーの国営航空会社として存在したマレヴ航空は、年間800万人が便を利用していました。私もマレヴ航空で社長を務めていました。今はハンガリーの会社はウィズエアーしかありませんが、年間1,400万人が利用しており、国営企業がなくても輸送力に全く問題が起きていません。」
「もしアリタリア航空が数日間運航しなくても、航空市場はその穴を問題なく埋められるはずです。」
コロナ禍でも拡大を続ける
アリタリア航空含むフルサービスキャリアが、政府からの支援金なしでは立ち行かない状況にあるのはご存知の通りです。一方のウィズエアーは、現時点で全便の運航を停止しても、2年間は倒産しないほどの資金があると明かしており、圧倒的な資金力を見せつけています。
その上で、ヴァラディ氏は、コロナ禍でも拡大策は止めないとして、ミラノ・マルペンサ空港での便数増加、これまで以上のミラノでの規模拡大に打ってでるとしています。
マルペンサには既に、ヨーロッパLCCの両雄 ライアンエアーとイージージェットが乗り入れていますが、彼は、「ミラノへの乗り入れのための、適切なタイミングをずっとうかがってきた。今後の成長戦略の核になる空港である」として、強気の姿勢を崩していません。
LCCが問う、アリタリア航空の是非
ヴァラディ氏は、ミラノでは他の航空会社を巻き込んだ激しい価格競争が起こることを予想しており、果たしてアリタリア航空が、大量の資金を注入されたとしても、その戦いに勝ち抜くことができるかは全くもって不透明です。
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プーリア州における旅客数の遷移
実は、イタリア南部・プーリア州において、アリタリア航空とLCCの旅客数の比較に関する面白い情報があります。
2009-19年の10年間の旅客数について、アリタリア航空は、約101万6千人(2009年)から、約152万6千人(2019年)と、約50%増やすことに成功しました。
一方でライアンエアーは、2009年には約81万8千人だった旅客数を、2019年に約384万8千人に、約450%増やしています。
プーリア州において、アリタリア航空が全く及ばないほどの旅客をライアンエアーが獲得していることが分かります。
利益をもたらすLCCに負担をかけてもいいのか?
ライアンエアーは、アリタリアが飛ばすことができない都市へ/からの就航を多くしており、例えばプーリア州では、バーリ、ブリンディジなどの国内・国際線を2009年から、様々な路線で運航しており、非常に大きな観光効果をもたらしているようです。
便の発着が多くなれば、その分多くの空港使用料等の諸税が州・自治体に支払われますので、空港のある町にとってのメリットも大きくなります。
アリタリア航空の正式な再建方法もはっきりしていないのが現状であることは、お伝えしました。にも関わらずアリタリア航空は、イタリア本土とシチリア島の間の路線について、一部の路線で独占権を得ると、新聞各社は予想しているようです。
小さな離島などについては、これまでも独占権が適用されることはありましたが、往来も多く、需要も高いシチリア路線にも適用されるとなると、かなり異例なことです。
さいごに
LCCなどの航空会社から厳しいまなざしを向けられているアリタリア航空。
再建は、かなりのいばらの道になると想像されますが、こうした批判に屈することなく、全く新しい航空会社に生まれ変わることはできるでしょうか。今後もあらゆる側面から、この再建の話は注目していく必要がありそうです。
参照
- Financial Times『Can renationalisation get Alitalia off the ground?』
- Forbes『Italy Sets New Path For National Airline Alitalia』
- Corriere della Sera『Aerei, il numero uno di Wizz Air: «Così dall’Italia lanciamo la sfida a easyJet e Ryanair»』
- Agenzia Italia『Ryanair farà ricorso all'Ue contro la nuova Alitalia』
- Quotidiano di Puglia『Passeggeri, Alitalia “va piano”: in dieci anni Ryanair fa volare oltre il quadruplo dei viaggiatori』