健康を害してでも?食べたいマリトッツォ
“僕の前に、つやつやで真っ白で、真ん中に生クリームがぎっしり詰まった君がいる。喉にはよだれがあふれんばかり、君を惚けて愛でている。君は僕のコレステロール値をとんでもなく上げるって、医者はうるさく言うけれど、それでも僕は言うよ、親愛なる私のマリトッツォ、君をむしゃむしゃ、食べてから代償は払うさ”
訳:筆者 Ignazio Sifone, Ode ar maritozzo, Garbatella, 1964
これは、詩人イニャツィオ・シフォーネがマリトッツォを褒め称えるために書いた頌歌です。自分の健康を侵してでも食べたくなってしまうほど、魅力的なマリトッツォ、一体どんなお菓子なのでしょうか。
生クリーム爆弾:マリトッツォ
最近はカルディでも発売され、日本のパティスリーでも見かけることのあるマリトッツォ。ふわっふわのブリオッシュの中に、これでもかとぎっしり詰められた生クリームが特徴です。
サイズは小さいコッペパンほど。決して小さいわけではなく、食べる前からもうすでにお腹がいっぱいになってしまいそうな見た目ですが、一口食べたらもう止まりません。
かすかに感じる生地の柑橘系の香り、軽くて甘さ控えめな生クリーム。エスプレッソとともに味わえば、瞬く間に至福のひとときが完成されます。
マリトッツォはローマの伝統的なお菓子です。ナポリに住んでいた時はその存在さえも知りませんでした。やはり地域色の濃いイタリアのお菓子たち。魅力的ですね。なんとのその歴史は、古代ローマまで遡ります。
罪深いファストフード
古代ローマ時代、畑仕事に従事する夫たちのために、妻たちは卵、小麦粉、オリーブオイルにラード、塩、干しぶどうと蜂蜜で甘く味付けされた丸パンをこしらえていました。
これがマリトッツォの原型だと言われています。そんな、労働者のためのファストフードのような存在だったマリトッツォですが、実は中世には四旬節の断食期に唯一食べることが許されていた“peccato=罪”だったのです。
“er Santo Maritozzo=聖なるマリトッツォ”と人々は呼び、口に入れることのできる喜びを大袈裟に表現しながら食べるマリトッツォは、まさに背徳の味だったことでしょう。
ちなみに、当時の四旬節の断食期に食べられていたマリトッツォは現在のものよりも小さいサイズで、生地の色が濃く、ドライフルーツが使われていました。見た目はちょうどぶどうパンのような感じです。今もシチリアにはその名残のお菓子があるようです。
バレンタインの先駆けだった?マリトッツォで交わす愛
実はローマの伝統の一つに、3月の第一金曜日、男性が結婚を約束した女性にマリトッツォを送るという文化があったようです。
ちょうど今のバレンタインのような感じです。幸運をもたらすという意味合いがあり、つないだ手や、矢で射抜かれた2つのハートのお砂糖のデコレーションが飾ってあったとか。中には指輪や金のアクセサリーが隠されていたと言います。
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また、マリトッツォはイタリア語でmarito=“夫”という言葉に親愛辞“-ozzo”がついた言葉で、簡単に言えば”旦那ちゃん“のような、夫という名称を可愛く表現した言葉なのですが、これもローマの伝統が関係しています。
それは、伴侶を探す年頃になった村の娘たちが、村一番の美少年に手作りのマリトッツォを送り、彼が一番気に行ったマリトッツォを作った少女が、彼のお嫁さんになれる、というもの。なんだか微笑ましい“旦那ちゃん探し”ですね。
終わりに
素敵なお話が生クリーム以上に詰まったマリトッツォ。食べたくなった!という方のために、次回はローマの名店をご紹介したいと思います。
参考資料
- E' QUARESIMA, ODE AL MARITOZZO
- Marittozi Romani
- Cos'è il maritozzo: storia e leggende del dolce romano
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ちなみに私は、イタリアのビスケットであるカントゥッチやビスコッティーニも大好きで、ネットだけでなく食料雑貨屋さんなどでもついつい買ってしまいます(笑)