日本でどのくらいシチリア料理って知られているのでしょうか。検索するとシチリア料理店もいくつも出てくるので、結構知られているのかしら?
毎年シチリアへ料理の修業をしにいらっしゃる方も増えてますしね。ではシチリア料理に必要なものは何でしょうか。新鮮な魚介類?勢いのあるトマトやナスなどの夏野菜?それともレモン?それは勿論そうですが…
実は意外と知られていないのが、パン粉です。シチリア料理にはパン粉が欠かせないのです。
シチリア料理とパン粉の関係性について
シチリア料理とパン粉は切り離す事ができません。あらゆる所でパン粉が登場するのです。
古代ローマ帝国時代にまでさかのぼる背景
そしてこれにはちゃんと歴史的背景が存在しています。古代ローマ帝国がポエニ戦争でカルタゴに勝利した事によって、ローマ人はシチリア島へ上陸します。既にそれまでにフェニキア人、ギリシャ人が上陸していましたが、彼らは地中海貿易拡張のために、沿岸部に植民地を作っただけでした。対して古代ローマ人は上陸後、「小麦栽培」の為に内陸へ、内陸へと侵入し、シチリア島を統一します。
ローマ人は国民を操る為には「娯楽とパン」を与えるのが最上の作だと信じ、小麦栽培に力を入れていたのです。1番有名なのはローマのコロッセオだと思いますが、円形劇場でかなり野蛮な戦いを見せて楽しませ、パンでお腹を見たせておけば市民からの不満はあがらず、政治に関心を寄せる人も出なかったということだそうです。更にその当時はいつもどこかで戦争を行っていましたから、兵士達にも十分な食料を与えなくてはいけませんでした。
そういった理由で、古代ローマ人は広大な「小麦畑」を確保する必要があったのです。一般的にシチリアといえば、沿岸部の風景を思い描く方が多いと思いますが、内陸は至る所に小麦畑が広がります。従って今現在でもシチリアは小麦生産量を誇り、細かい正確な数字が見つからなかったのですが、シチリアとプーリアでイタリアの小麦生産量の半分近くを占めています。そしてシチリア人はパンが大好き。
シチリアのパンは、とにかく美味しい
トラットリアやレストランで注文を終えた後、すぐにパンが運ばれてきます。そして彼らはすぐにパンに手を伸ばします。最初の料理が運ばれて来る前にパンのかごが空になるなんてザラ。もうほぼ無意識に手を出していると言う感じです。昔フィレンツェに住んでいた頃は「イタリアのパンは不味い」と思っていた私ですが、シチリアに住み始めてから考えが変わりました、ここのパンは美味しい(多分プーリアの方が上かと思いますが)、北イタリアのパンは不味い。
シチリアは、パン屋さんが1日に2度以上パンを焼く、唯一の州だと聞いています。個人的には唯一と言い切ってしまう自信はないのですが(笑)、かなり珍しい事だとは言えるでしょう。朝だけではなく、昼も夜も焼きたてのパンを食べたいと思うシチリア人、人気のパン屋さんは朝から夕方まで何度も焼いているところもあります。
ランチで手をつけたパンが余っているのに、夕方又焼きたてのパンを購入。残念なことにこちらのパンは翌日はすぐに固くなってしまい、美味しくない。トースターで温めればそれなりに復活しますが、ブルスケッタ以外ではまずパンをトーストしない人達ですから、放置されます。そして余ったパンの行方は?
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パン粉を使った絶品のシチリア料理!
勿論捨てるなんて言う事はありません、硬くなったパンはおろしてパン粉となります。そう、だからシチリア料理にはパン粉がよく登場するのです。
最も一般的なのは、肉や魚にパン粉を付けて焼くと言うやり方。
オリーブオイルとパン粉で焼いたお肉
一見カツレツに見えますが、実は別物です。肉にオリーブオイル→パン粉の順につけ、フライパンで焼いた物、オーブンでも作れます。野外でBBQをする時にもパン粉を付けた肉を焼くことが多いです。
小イカもパン粉まみれ?
これはその小イカバージョン、同様に魚もナスやズッキーニのスライスでも作ります。
リピエーノ
さらにリピエーノ(何かを何かに詰める料理を「リピエーノ」と呼びます)、こちらも肉でも魚でも野菜でも作れます。
これはヤリイカのリピエーノですが、中身はパン粉が中心。プラス松の実と甘くないレーズン(日本には入っていないかも)がマスト、パン粉、松の実、レーズンと言うトリオはシチリア料理では定番です。
私はアンチョビとミントを加えました。 パセリでも大丈夫。そこへサクサクになるまでオリーブオイルを加え、イカに詰めてオーブンへ。日本のいか飯のパン粉版といった所でしょうか。
このリピエーノ、アーティチョーク、イワシ、ピーマン、ナスなど、色々な食材で作りますが、まぁ中身は一緒(笑)。と言うように、シチリア料理にはパン粉が欠かせません。余ったパンの再利用、北イタリアではスープと煮込むことが多いですが、シチリアではパン粉として活躍するのです。
イワシのベッカフィーコ
リピエーノではなく、同じパン粉の具材を肉、魚、野菜で巻く「インボルティーニ」と言う料理もあります。その中でも最も有名で代表的なものはイワシ、「イワシのベッカフィーコ」と言う料理です。
詰め物以外には「チーズの代用」として使用します。冒頭にご紹介したアンチョビのパスタが良い例でありますが、パスタにかける「粉チーズ」の代わりに乾煎りしたパン粉を使用するのです。
ご存知の方も多いかと思いますが、シチリアに限らずイタリア人は魚介類にチーズを使用しません。この辺の食事に関して、イタリア人はとても頑なです。そしてシチリア人は魚介のパスタに乾煎りしたパン粉をかけて食べるのです。
イワシのパスタ
これはイワシのパスタです。イワシ、松の実、レーズン、フェンネルで作り、仕上げに乾煎りしたパン粉をたっぷりと。
この乾煎りしたパン粉の作り方ですが、とても簡単です。フライパンでパン粉を乾煎りし、色が変わって来たら少しずつオリーブオイルを加えるだけです。乾煎りする時に鷹の爪を加えると、ピリ辛のパン粉が出来上がります。
シチリアの家庭ではこれを綺麗な瓶に入れて保存している人が多く、我が家でも常備してあります。話を聞いただけではピンとこないかもしれませんが、よくグラタンなどのオーブン料理にパン粉を乗せて焼きますよね?それを思えばなんとなく感覚が掴める事と思います。
さいごに
今回はイワシ以外は全て私の手料理の画像を載せましたが、私でも簡単に作れると言うわけで、シチリアの家庭料理は素材さえ手に入ればハードルが低いと思います。
リサイクルし、そして元はパンですからお腹にずっしりと溜まるという利点もあったのでしょうね。昔は人々の生活は本当に貧しく、家で焼いたパンと畑で取れた野菜、そして運が良ければチーズが食生活の中心でした。
その中で空腹を満たすためには当然知恵が必要でした。そんな中から生まれた硬くなったパンの再利用、その知恵が現在のシチリア料理にしっかりと受け継がれているのです。昔の人は賢かった、どの国のどの土地の人達も。
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