イタリア語ができなくても?イタリアの大学に正規留学【連載第一回】

イタリア語ができなくても?イタリアの大学に正規留学【連載第一回】

YASUE

初めてのイタリアは仕事で訪れたペルージャ。以来たびたび日伊を往復すること5年、離職してボローニャで大学院生に。卒業後もそのまま在住。現在は映画の仕事の傍ら、大好きな絵本と海外育児のあれこれについてブログを綴る。 linktr.ee/yasue

はじめに

新年あけましておめでとうございます。みなさん、安全で楽しいお正月を過ごされたでしょうか。ここイタリアでは年末年始の外出制限が厳しくなり、静かな年越しを迎えました。今年は一日も早く平常通りの生活が戻ることを願うばかりです。

さて年が明け、目標をあらたにされている方も少なくないかと思います。本記事に目が留まった方、もしかして「イタリア留学」や「海外で学位取得」という文字が頭に浮かんでらっしゃるでしょうか。

ちょうど3年前の今頃、わたしは国立ボローニャ大学の修士課程に入るための準備を本格的に始め、翌夏に合格、そして去年10月に卒業しました。でも、入学時のイタリア語といえば日常会話もままならない状態でした。

そんなわたしがなぜイタリアの国立大学に正規留学できたのか。それは入学した課程の授業がすべて英語で行われるものだったからです。ほかの非英語圏の大学でも数が増えつつある英語での履修コースは、その国の言語に達者でなくても留学の可能性を広げてくれます。

イタリアで学びたいけど、語学留学以外の方法はないか。英語で正規留学をしたいけど、アメリカやイギリスの大学は学費が高すぎて…。たとえばそんな方に、今回連載でお届けする体験談が少しでも参考になれば幸いです。

なぜイタリアで大学院に?  

わたしの場合、まず学びたいことがある学校が見つかったことが大きいですが、もともとイタリア贔屓だったこともあります。きっかけは仕事でしたが、イタリア短期滞在を繰り返すうちにすっかりこの国に魅せられ、しばらく暮らしてみたいと思うようになりました。

とはいえ、そのときすでにアラサー。安定したキャリアを捨て、住み慣れた日本を離れるのは容易にできることではありません。現地で就労できるような語学力やコネはなく、可能な選択肢はせいぜい留学でした。

でも言語を学ぶだけなら日本にいてもできるし、長年続けてきたやりがいある仕事を辞めてまで語学留学というのはあまりにも天秤に合いません。

せめて修士号なり専門的な技術の取得なり、ハイリスクとしか思えない留学後のキャリアチェンジに少しでも不安要素を取り払ってくれるような道しか考えられませんでした。

かといって何を学びたいのか。はっきりしないままさらに数年が過ぎます。結局、長期滞在が目的で留学なんて浅はかだし後悔するだけだと思い、どうしてもこれが学びたいという目的と覚悟ができないかぎりは現状維持を保つことにしました。

やがて自分の興味と職務経験の延長線上に見えてきた未経験分野の修士号に挑戦したいと考えるようになるも、あれこれ調べるうちに日本含めイタリア以外の大学院でも学べるという選択肢もちらつきました。

そんな紆余曲折を経て2018年秋に実現したイタリア正規留学。決め手となったのは、名門校で希望していた分野の修士号が取れ、受験から卒業まで必要な言語は英語だけ、さらに2年間のイタリア暮らしも経験でき学費も抑えられる…そんな条件を満たす志望校が一つだけ見つかったことでした。幸い合格して今に至ります。

ほかの国と比べて何が良い?

費用面のメリット

国立大学に限りますがイタリアの学費の安さは大きなメリットです。対してアメリカやイギリスの大学の学費は非常に高額な傾向にあります。分野にもよりますが、たとえばわたしが学びたかったアートマネジメントでは名の通ったイギリスの某校の年間学費が、ボローニャ大学のそれの約10倍だったと記憶しています。

日本では慶應義塾大学がこの分野の修士課程を設けていましたが、地方出身のわたしが東京に暮らし私立の学費を払うことを考えると決して安く済まないという結論に至りました。

生活費は滞在先の都市によって差が出ますが、まとまった支出となる学費をいかに抑えられるかというのは私費留学において大きなポイントになるかと思います。

魅せられた異文化に身を置くという経験

イタリア好きの人の多くは、美しい景観や豊かな文化遺産、おいしい食べ物などに魅力を感じるのではないでしょうか。わたしもそんなひとりでした。

もともと文化などに興味がある国で一定期間生活を体験できるというのは大きなアドバンテージで、決して楽ではない長期の留学生活を乗りきる励みにもなります。

またこれは欧州全土に言えることですが、数日の休暇があれば陸路や数時間の空路の旅で国境を越え気軽に多文化に触れることができるのも、イタリアに住む利点の一つです。

ただし「パリ症候群」という言葉があるように、憧れや良いイメージだけが先行したままいざ現地生活を始めると、理想と現実のギャップに気を落としてしまうケースもあります。

だからこそ留学の本来の目的が別にあることが重要ですし、その土地の長所短所両方を受け入れて生活できるかをある程度想定しておくことも大切です。

たとえばイタリアの場合、次のような生活上の不便さを感じることは少なくありません。

対するデメリット

どの国も一長一短ですが、日常生活に必要なサービスが正確に滞りなく提供される日本と比べると、イタリアのそれはなかなか一筋縄ではいかず忍耐を要します。行政手続きの遅さ、郵政事情の悪さ、遅れて当たり前の公共交通機関にストライキなど、例をあげたらきりがないほど。

いろんなことが良く言えばおおらか、悪く言えばいい加減なイタリア。何事も計画通りにきっちりと進まないのはいや、白黒はっきりしないと気が済まない、という気質の人にはストレスになるかもしれません。

さらに国立大学なら学費が安い分、施設やサービスが充実してないと感じることもあるでしょう。詳しくは次回お話ししたいと思います。

次回予告

さて、今回はわたしがイタリア留学に至った動機を中心に、現地正規留学の長所短所をさっとお話しました。

たくさん迷った末に断行した留学でしたが、今は思い切って挑戦してよかったと思います。30を超えてからの久しぶりの学生生活は山あり谷ありでしたが、自分を大きく成長させてくれました。

次回はそんな入学から卒業までの大学院での体験を詳しく綴りたいと思います。どうぞお楽しみに。

参照

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