シチリアから食と文化について発信している、桜田香織です。前回イタリアにおけるパスタの決まりごとの様な事をお届けしましたが、今回も引き続きパスタについて書きたいと思います。
パスタのカタチとソースの組み合わせ
イタリア人にとって切り離すことの出来ないパスタ、彼らにとっての一皿のスパゲッティは日本人がお寿司に対する思いよりもずっと奥が深く、こだわりも強いので、色々と上げていくとキリがありません。今回はパスタの形状とソースの組み合わせについて、私が知っている範囲でお伝えしたいと思います。
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イタリア中にあるパスタ、地域密着のパスタ
ご存知の方も多いかと思いますが、イタリアには様々な種類のパスタがあり、四半世紀以上在住している私でも知らない物が沢山あります。地域に密着したパスタも多く、それらはその土地へ行かなければ出会えません、他の町では売っていないのです。
例えばアネレッティという名前の指輪型のパスタ、これはシチリアの特にパレルモ地方で使用されているパスタで、フィレンツェに7年住みましたが当時は全く見たことも聞いたこともありませんでした。シチリアではこれを使ってパスタのオーブン焼きを作るのですが、何故か暑い夏場に多く作られます。
北イタリアでは夏にラザニア の様なパスタのオーブン焼きなど考えられないことですが、何故かシチリアでは、特にパレルモではこれを持って海へ行くのが夏の風物詩です。
イタリア人はパスタの形状とソースの組み合わせにとてもこだわりを持っています。そして食に関して保守的なので、なかなかそれを崩す事がありません、どうも受け入れられない様です。
ソースとパスタの定番組み合わせ!
万能ソースは、やっぱりトマトソース
まず、どんな形状でもOKという万能ソースは、シンプルなトマトソースでしょう。基本のトマトソースには玉ねぎは入らず、ニンニク、オリーブオイル、好みで鷹の爪、そしてトマトで作られます。玉ねぎを入れたトマトソースも勿論ありますが、「基本の」と言われるソースには入りません。このトマトソース、おそらく北から南まで一番愛されているのではないかと思いますが(特に南)、パスタの形状はロングパスタからショートパスタ、詰め物をしたラビオリやトルテッリーニまで何でも合わせる事ができます。
ミートソースも汎用性が高い
次にいわゆるミートソースですが、これもほとんどの物は大丈夫です。でもスパゲッティに合わせる事は少ないですし、合わないという輩も多い様です。細い麺だとソースがうまく絡まらず、挽肉がボロボロ落ちてお皿に残ってしまうからだそうです。
きしめん状のタリアテッレが定番ですが、リガトーニなどのショートパスタ、トルテッリーニ、又ニョッキにもよく合います。
オイル系のソースは細めのパスタ
オイル系のソースには細めのスパゲッティ、ペペロンチーノやボンゴレが代表的ですよね。例外としてはPasta in Biancoと言う、パセリも唐辛子もニンニクも入れない、オリーブオイルだけの「白いパスタ」なのですが、これは胃腸の調子が悪かったり食べ過ぎた後などに食べる物で、ショートパスタでも作る事があります。
クリーム系のソースは、独特
クリーム系のソースにはきしめん状、もしくはショートパスタで作ります。ニョッキも然りです。まずスパゲッティでは作りません。リガトーニやペンネなど穴のあいたパスタだと、中にクリームが入り込み美味しくできます。
魚介ベースの例外、サーモンクリーム
一般に魚介ベースですとトマトソースかオイル系となり、魚介とクリームを合わせる事をしないイタリア人ですが、例外は「サーモンクリーム」です。スモークサーモンと生クリームで作りますが、これには何故か必ず「ファルファッレ」と言うリボン状のパスタを使用します。
私個人的にはペンネで作るのも好きなのですが、イタリア人の相方は嫌がります(笑)。誰がいつ決めた事なのか全くわかりませんが、どこで出されても、つまりレストランでも友人宅でもファルファッレが使われています。
更に付け加えると、魚介に「卵麺」は組み合わせない事が多いみたいです。タリアテッレ なども卵なしの麺を使います。
私の住んでいる、シチリアのお話
更にシチリアに関してお話しするとナスとトマトのパスタ、「ノルマ風」と言われているパスタはリガトーニが伝統的ですが、スパゲッティでも大丈夫。でも卵麺と合わせる事はまずありません。
イカ墨のパスタ、イワシのパスタにはブカティーニ、そうでなければ太目のスパゲッティで作ります。私は細目のスパゲッティも合うと思っていま寿司、実際シチリア以外ではそれもありです。
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日本のパスタ
この様にイタリアは決まり事がありますが、次に日本のパスタを見え見ましょう。
冷製カペッリーニは日本独自?
暑かった夏場、FBやインスタなどあちこちで「冷製カペッリーニ」の画像を目にしました。結構皆さんお好きなようですが、実は私は食べたことがありません。
いつ頃誰が作り始めたのか検索してみると、時期はわからなかったのですが、有名な山田宏シェフ説と、元飯倉キャンティの飛田シェフという説が出てきました。どちらが本当かは判断できませんが、そうなると80年代前半?当時は全く知りませんでした。
そして近年流行りまくって、いつの間にか普通に食卓にあがるほど広がっていたのですね。しかしイタリアには冷製パスタは存在しません。日本でお蕎麦だか素麺を食べたイタリア人のシェフがイタリアに落ち帰って発案したと言う説もある様ですが、イタリアでは定着していません。
パスタサラダも本家とはちょっと違う
イタリアには「パスタサラダ」がありますが、これは日本の「冷製」とは全くの別物、茹でたパスタを冷水で締めるという工程がないのです。これはイタリア人にしてみたら有り得ない事らしい(笑) パスタサラダは茹でたパスタを(大抵)常温の具と混ぜるだけ。その後わざわざ冷やすことも稀で、常温で食べるのが普通です。イタリア人にこの「冷製カッペリーニ」の話をすると、結構驚かれるのです。随分前に相方に「作ってみようか?」と聞いたら、「いや、別に作らなくて良いよ」と。通訳すると「食べたくない」ってことです。
どうも彼らには「パスタは温かくなくてはいけない」と言う思いがあるらしいですね。パスタサラダは別で、それは許せるらしいけど。 つまり、茹でた麺を水で締めるという行為が許せないらしいです。
というわけで、私は食べた事も作った事もないわけです。帰国した時に食べれば?と思うかもしれませんが、帰国時に冷製の麺を食べるとしたら、日本蕎麦か素麺に優先権がある為、わざわざそれを食べようという気にならないのです。
因みに私の相方、日本のお蕎麦やさんでは夏でも暖かい物を選びます。人様にご招待を頂いて、お蕎麦やさんのコースだったりすると最後にざる蕎麦が出てくる事もあり、そういう時には我儘言わないでちゃんと食べていますが、こっそりと「温かいつゆ入りの蕎麦と変えられるか?」と、耳打ちされる事もあり。やっぱり冷たい麺に馴染みがないみたいですね。
日本人の作るパスタは、とにかく自由なのかも
とにかく日本人の作るパスタは自由でいいと思っています。随分前に「キャベツとアンチョビのスパゲッティ」というのが話題になり、おそらく30年近く前の事だと思いますが、発端はとある広尾にあるイタリアンの賄い食だったと記憶しています。 そこから誰かが目をつけて、紹介して、雑誌でも取り上げられて、ブームが起きました。
イタリアで一人暮らしを始めた頃は、私もよく作りましたよ。それが今の相方と暮らすようになり、作らなくなった。ある日試しに作ってみたら、「どうしてキャベツ?」と聞かれました、これ予想内でしたけど。「ある時期日本で流行ったの」と答えたら、ふーんって感じ。完食したけれどそれ以来リクエストは来ません、作れば黙って食べますけどね(笑)。
鶏肉を使ったパスタもイタリアには存在しません。イタリア語で検索しても出てこない、スペイン語のレシピは出てきたので、スペインでは食べられているのでしょう。
数日前は友人が作った「ひき肉とナスのパスタ」を目にしました。イタリアでもその組み合わせはありますが、ひき肉は煮込んだラグーソースであり、ただパラパラと炒めたひき肉をパスタに使う事はイタリアではありません。
シラスをトッピングしたり、日本のパスタは自由自在って感じです。そうそうシチリアにもシラスのパスタはありますが、シラスをトッピングという発想はありません、トッピングはパセリです。
ある日、私的には結構定番だと思っていた「ほうれん草とサーモンのパスタ」を作った時、「美味しいね、この組み合わせ。初めての味」と言った彼。この組み合わせは私が日本にいた頃から存在していたから、日本では少なくとも25年以上前から食べられていて、全然新しくないんですけど?つまり、このレベルなんです。
上げていけばきりがないのですが、日本人の発想は凄いと思います。多分焼きそばや炒飯感覚で作っているのかもしれませんね。
さいごに
まとめてみると、この様に意外かもしれませんがイタリアにおける家庭料理のパスタは、あまり新しい物が出てきません。若いシェフはどんどん斬新な物を生み出していますが、家庭料理に関してはとても保守的であります。
とにかくイタリアはパスタの形状とソースの関係にこだわるのです。私と同様にイタリア人と暮らす日本人の女性達、皆な結構嘆いています。自分の発想で作ると、ご主人やお子さん達に「この組み合わせはないだろう」と言われると(笑)
伝統を守るのはいい事だと思いますが少々頑な過ぎるのがネックとなり、発想が乏しい…。まぁ彼らはそれがネックだとは1ミリも思っていませんが。
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