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『郵便配達は2度ベルを鳴らす』(1942)/『無防備都市』(1945)/『戦火のかなた』(1946)/『揺れる大地』(1948)/『アモーレ』(1948)/『ストロンボリ、神の土地』(1950)/『ベリッシマ』(1951)/『ウンベルトD』(1952)/『カビリアの夜』(1957)/『アッカットーネ』(1961)/『輝ける青春』(2003)/『人生、ここにあり!』(2008)/『暗黒街』(2015)/『おとなの事情』(2016)/『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』(2017)/『LORO 欲望のイタリア』(2018)/『シチリアーノ 裏切りの美学』(2019)
ネオレアリズモ映画を、もっと老若男女問わず見ていただきたいという思いから、第1回はネオレアリズモ特集で、代表的な6作品を、第2回はヴィットリオ・デ・シーカ監督の『ウンベルトD』を、それぞれ紹介いたしました。
そもそも「ネオレアリズモって何?」という方は、これらの記事をお読みいただければと思います。
続きを見る 続きを見る今だからこそ観たい、ネオレアリズモを代表する映画6選
『ウンベルト・D』ーネオレアリズモ映画を見始めるひとたちへー
そしてこの記事「ロッセリーニのネオレアリズモ映画<その1>」では、ロベルト・ロッセリーニ監督の代表作品でもある、『戦火のかなた』を紹介します。
ネオレアリズモ映画の先駆者 ロッセリーニ
ある日、届いた手紙
まず突然ですが、ある日ロベルト・ロッセリーニがもらった有名な手紙をこちらで紹介させていただきます。
親愛なる ロッセリーニさん、あなたの映画『無防備都市』と『戦火のかなた』を見て、私はとても気に入りました。もし、あなたがスウェーデン人の女優、英語は堪能、ドイツ語は忘れていないけれども、フランス語はあまりわからない、イタリア語は「愛してる」という言葉しか知らない、そんな女優でも必要でしたら、私はいつでもあなたと映画を作るためにイタリアへ行く準備ができていますよ。
イングリッド・バーグマン
ロッセリーニという人
ネオレアリズモ映画の監督は、ロベルト・ロッセリーニ、ヴィットリオ・デ・シーカ、ルキノ・ヴィスコンティが代表格ですが、その三大巨匠のうち、ロッセリーニはとくに先駆者的存在です。
公開当時はイタリア国内にてあまり評価はされなかったものの、海外で絶賛され、彼の映画はアメリカやフランス映画界の著名監督らに多大なる影響を与えています。
特にフランスのジャン・リュック・ゴダールやフランソワ・トリフォーは「ロッセリーニの映画に影響を受けた」と公言しており、ロッセリーニは「ヌーヴェル・ヴァーグの父」とも呼ばれるようになります。
ロッセリーニは、デ・シーカと異なり、ブルジョワ階級出身です。幼い頃から家に芸術家が多く出入りしていており、また映画館にもよく通い詰めていたようで、芸術家の道を辿る環境はあったようです。また持病があったため戦時中徴兵されることはありませんでした。
戦時中も、すでにロッセリーニは映画を撮っていました。彼は実は国策のプロパガンダ映画を撮影しており、国内では名のしれた監督となっていました(映画好きであったムッソリーニの息子と仕事をしている時もありました)。
そこから180度変わり、ネオレアリズモ志向に方向転換します。1945年に早速『無防備都市』、1946年『戦火のかなた』を完成させます。
イタリアでは評価されませんでしたが、この2作品がヨーロッパ、アメリカで大ヒットし、ロッセリーニが世界的監督として名を知らしめるようになりました。ちなみにイタリアでも、その後逆輸入的に評価されました。
イングリッド・バーグマンとの出会い
この2つの映画に運命を感じた、ある人がいます。女優、イングリッド・バーグマンです。彼女はロッセリーニの『無防備都市』『戦火のかなた』に衝撃を受け、惚れ込み、彼に熱烈なラブコールを送ります。(冒頭手紙)
念願叶い、1950年に彼の作品『ストロンボリ、神の土地』に主演。同時にこの2人は不倫関係となり、やがてイングリッド・バーグマンは彼との子を身篭ります。この出来事はアメリカ・ハリウッドだけならず経済界、政治界からもバッシングをうけ大スキャンダルとなってしまいます(彼女はやはり高貴で聖女のような存在だったのです。寵愛していたヒッチコックも怒り狂います)。
彼女はアメリカを追われ、ロッセリーニと結婚します。その後もロッセリーニの作品に出演つし続け『ヨーロッパ一九五一年』、『イタリア旅行』、『火刑台上のジャンヌ・ダルク』、『不安』と計5本のロッセリーニ監督作品にて演じ、当時の興行成績は芳しくなかったものの、これらの作品はその後映画史上に残る作品となります。
1956年に2人は破局してしまいましたが、娘のイザベラ・ロッセリーニをはじめとして、映画界に残る様々な産物を残してくれたカップルでした。
『戦火のかなた』(原題:Paisà)
今回ご紹介するのは、このイングリッド・バーグマンとロベルト・ロッセリーニが出会うきっかけとなった2作品のうちの1つ『戦火のかなた』です。
ハリウッドで人気絶頂の女優が、相反する位置づけのネオレアリズモの映画に惚れてしまったというのは、あまりにも皮肉ですね。この作品が彼女にイナヅマを走らせた理由を想像していただければと思います。
あらすじ
本作品は6エピソードにて構成されており、シチリア、ナポリ、ローマ、フィレンツェ、エミリア地方、ポー川デルタ地域と、南から北へエピソードを追いかけるように撮られています。
1943-44年の、ムッソリーニ政権が崩壊し、ドイツ軍が敵となっている時代の話です。ドイツ軍と米軍両占領下での敗戦国イタリア国民の悲劇を描いています。
各エピソードが短いので、ネタバレを避けるため、ここでは細かなあらすじは割愛させていただきます。
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解説
イタリア戦線に沿った時系列
本作品がイタリアの南から北へとエピソードを展開しているのは、何故だかわかりますか?それは米軍による占領は、まず南から始まったからです。つまりいわゆるイタリア戦線を時系列で追っています。
第二次世界大戦において1943年7月9日連合軍はシチリアに上陸します。そこから9月8日イタリア王国降伏後も1945年5月まで続けられました。
その中でも本作は、ドイツ軍(のち幽閉されていたムッソリーニを解放)と親ドイツ派のイタリア軍、そしてアメリカ軍のこの三者の狭間に挟まれたイタリア市民の悲劇をよく描いています。アメリカ軍とイタリア市民の交流が描かれているのは珍しいです。(前作の『無防備都市』にはアメリカ兵は登場しません)
"Paisà"と"Sciuscià"
原題の"Paisà"というのは、「同郷」とか「友」と呼びかける時につかうナポリ弁です。アメリカ軍は在米中に軍の演習でこの言葉を習わせたそうで、映画中、イタリア市民とコミュニケーションをとるために頻繁に使用しています。
これは同年にデ・シーカによって撮られた『靴磨き』の原題”Sciuscià”とは逆の発想です。
イタリアが敗戦してアメリカ軍占領下になった時期、イタリア人の中には、アメリカ人の靴磨き(英語で"Shoe Shine")をすることで金を稼いでいる者がいました。その"Shoe Shine"という英語がイタリア語なまりになり、”Sciuscià”という単語になったのです。
しかし反対に、この”Paisà”はイタリア語をアメリカ人が英語化して使った単語です。
この言葉が実に効果的に使われていると思います。アメリカ軍はイタリア人に親しみを込めてこの言葉を使うのですが、それがあまりに無理矢理使っているようで、から元気に聞こえる不自然さが、戦争の異質さを表しているように見えます。
フェデリコ・フェリーニも参画
本作品は、ネオレアリズモの趣旨に沿って、素人、セミプロを役者として使用し、その現実を淡々と追うという作品です。しかしその中でもアメリカ軍との交流など、救われるような人情に触れられるものが多いです。
また本作品では、次の記事で紹介する『無防備都市』にて、ロッセリーニに手腕を評価されたフェデリコ・フェリーニが本腰をいれて脚本を書き、助監督も務めています。当時、ただの似顔絵描きであったフェリーニを発掘した、ロッセリーニの千里眼にはあっぱれと言わずにいられません。
戦後間もなくに、この映画を撮影できたその気力は想像する限り凄まじいです。荒廃したウフィッツィ美術館など(今の様子しか知らない私は、目を疑いました!)貴重な映像だと思います。エピソードも6つに分かれていてそれぞれが短いので、想像されているよりも見やすいと思います。
さいごに
こんな映画です
- 6本のエピソードによるオムニバス映画
- ドイツ占領下の1年の悲劇を描いています
- 実はフェリーニ初助監督作品
映画情報
戦争によってもたらされた悲惨さ、人びとの苦しさや不条理などが描かれたネオレアリズモ映画。当時のイタリア国民がどんな暮らしをし、何を考え、生き抜いていたのか...。『戦火のかなた』は、きっとあなたがそれを知るための手助けになってくれるはずです。
この記事は、<その2>とした次記事に続き、そちらではもう一つのロッセリーニの名作『無防備都市』を取り上げます。
続きを見るイングリッド・バーグマンが愛したロッセリーニのネオレアリズモ映画<その2>
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