ネオレアリズモの誕生ーヴィスコンティ監督初期3作品<その2>

ネオレアリズモの誕生ーヴィスコンティ監督初期3作品<その2>

Sayo

イタリア人の夫と息子と東京暮らし。日本にいながらもイタリアの食卓を再現したくて研究中。またイタリアの小説や映画を日本にもっと普及できればと、日々記事を書いています。

イタリア映画 特集記事

・【随時更新】最新作・近日公開予定のイタリア映画・ドラマ一覧

・各VODサービスで観れるイタリア映画10選を徹底比較!

U-NEXTAmazon PrimeNetflix で観れる映画

・イタリアに行けない今...自宅でイタリアを楽しもう!

ローマフィレンツェヴェネツィアシチリア を舞台にした映画

・各イタリア映画のあらすじ・感想紹介

郵便配達は2度ベルを鳴らす』(1942)/『無防備都市』(1945)/『戦火のかなた』(1946)/『揺れる大地』(1948)/『アモーレ』(1948)/『ストロンボリ、神の土地』(1950)/『ベリッシマ』(1951)/『ウンベルトD』(1952)/『カビリアの夜』(1957)/『アッカットーネ』(1961)/『輝ける青春』(2003)/『人生、ここにあり!』(2008)/『暗黒街』(2015)/『おとなの事情』(2016)/『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』(2017)/『LORO 欲望のイタリア』(2018)/『シチリアーノ 裏切りの美学』(2019)

さて、この記事では前回の「ネオレアリズモの誕生 〜ヴィスコンティ監督初期3作品〜<その1>」の続きとして、残りの2作を紹介します。

この写真はヴィスコンティが小さな島の漁村で、現地の人たちに囲まれながら撮影を行なっている様子です。まずはこの作品『揺れる大地』から紹介しましょう。

ヴィスコンティ・ネオレアリズモ映画3作

『揺れる大地』(原題:La terra trema)1948年

あらすじ

シチリアの漁村(アーチ・トレッツァ)の漁師たちは、元締めの仲買人に多くのマージンをとられ貧困生活を送っている。ヴァラストロ家の長男ウントーニはこの悪循環を断ち切ろうと、この村の漁民の中では珍しく、独立自営の漁をすることにした。

家を抵当に入れ、銀行から融資を受け、自分たちの船を購入したウントーニ。運良く大漁に恵まれ、鰯の塩漬けを大量に捌き一家は一挙に成功者となる。しかし一転、嵐の中、漁に出た彼らは漁船を壊してしまい、突然失業者になってしまう。

卸からは足下を見られ、鰯の瓶詰めをかなり値段を叩かれて売ることになってしまうし、家は差し押さえとなってしまった。彼らは自分たちが生き延びるために・・・。

解説

まるでドキュメンタリー映画

ネオレアリズモが始まった作品が『郵便配達は2度ベルを鳴らす』だとしたら、『揺れる大地』はネオレアリズモが確立した映画と言えるでしょう。ヴィスコンティ映画の中で群を抜いて異質さを放ちます。

この映画はまるで、シチリアのこの漁村をヴィスコンティがそのまま囲い込んでしまったような映画です。家族や親戚をそのままその家族の役として使っています。あのデ・シーカの『自転車泥棒』なども素人を使っていますが、これはその極限、もっともっと「ありのまま」の彼らを使っています。

それはまるでドキュメンタリー映画のようです。事前に絵コンテなど書かず、その現地の労働者に起こっている問題をそのまま扱い、その問題に直面している人々をそのまま使う本質をえぐりだしているかの描写です。それにしても、さすがヴィスコンティの審理眼、よくもこんなに漁民の中からイケメンを見つけ出しました。


ネオレアリズモは文学も
【文学】イタリア・ネオレアリズモの世界 はじめての人に勧める名著5冊

続きを見る

脈々と受け継がれる、イタリア南部問題というテーマ

イタリア南部は当時、農業、漁業、鉱山での労働者の貧困問題が深刻化していました。この南部問題を、最初に映画にとりあげたのがヴィスコンティといえます。ヴィスコンティは、当初の予定としてこの映画を第1部とし、「農村」「鉱山」と全三部を制作する計画でいたようですが、予算や撮影があまりに困難であったことから頓挫してしまったようです。

この「揺れる大地」の原題 ”La terra trema ”にEpisodo del Mare(海のエピソード)という副題がついていることからもお分かりになるでしょう。

しかし1960年、アラン・ドロン主演で『若者のすべて』(原題:Rocco i suoi fratelli)を制作します。これを見ていると、まるで『揺れる大地』の第2部のようです。プロの俳優を使っているなどだいぶ様相は異なりますが、イタリアの南部問題を取り上げている点、そしてこの男兄弟ばかりの家族、家族の崩壊のストーリーはまさに『揺れる大地』の続編のようです。

「若者のすべて」(Rocco e i fratelli)アラン・ドロン主演

ちなみに、時は変わって2011年、エマヌエーレ・タリアレーゼ監督による『海と大陸』という映画が公開されました。これはシチリアやランペデューサ島の近くにあるリノーザ島という小さな島の漁民の話なのですが、アフリカからの難民を違法とは知らずに助けてしまうという話です。

この映画の原題が「La terra ferma」。「揺れる大地」へのオマージュ映画でないわけがありません。このようにイタリア南部問題は変遷しながらも今でもなおしぶとく残っています。そして才能あふれる映画監督により、この問題を伝え続けることは脈々と受け継がれているのです。

彼らがこの問題を伝えることに使命感を持つのは、世界共通の問題だからでしょう。移民問題など、日本の状況と併せて考えさせられます。

イタリア映画を観るには?

コロナ禍でイタリアに行けない中、文化を少しでも知りたいなら、イタリア映画を観るのが一番。

オススメは、全VODの中でイタリア映画の本数ナンバー1U-NEXTあらゆる時代の王道・イタリア映画を楽しめるAmazon プライム

U-NEXTは1,639円、Amazonプライムは500円ですが、どちらも登録から1か月は無料で体験可能です。個人的には、どちらも同時に加入して、使い勝手や自分のニーズに合っていれば継続利用、そうでなければ解約、という体験方法が一番良いでしょう!

U-NEXTで1か月無料体験!

AMAZONプライムで1か月無料体験!

使っているうちに初めて分かることもありますし、イタリア映画以外にも魅力的なコンテンツがどちらも揃っているため、きっとどちらかは使い続けたくなると思います。

『ベリッシマ』(原題:Bellissima) 1951年

あらすじ

ローマのチネチッタにて映画会社による子役少女のコンテスト「Bellissima」が行われた。「我が子をスターに!」とすさまじい数の親子が押し寄せる。マッダレーナ(アンナ・マニャーニ)も彼女らの例にもれず、受験資格は7歳以上であるにもかかわらず、まだ5歳の子供にオーディションを受けさせ第1次審査を見事通過し、狂喜する。

彼女は自分の子は誰よりも可愛くて才能があると信じて止まないが、外野からは、やれ演技指導が必要だ、やれバレエができなければならない、写真館で写真を撮る必要がある、映画製作側にコネクションが必要だ、(プロデューサーとデキている母親もいるのよとか)などいろいろと言われ、彼女は娘のためにできるだけのことをやらなくてはならないと、身を粉にして働く。夫には一切お金をねだらない。

そしてマッダレーナに近づく映画製作側のスタッフは、「監督の奥さんなどにプレゼントをしなければ」とお金をせびり、挙げ句の果てにマッダレーナを誘惑してくる・・・。

解説

ヴィスコンティ念願のアンナ・マニャーニ主演

Anna Magnani

アンナ・マニャーニ主演。ヴィスコンティは当初『郵便配達は2度ベルを鳴らす』のヒロインにアンナ・マニャーニを想定していました。しかし彼女が妊娠してしまったため、クララ・カラマイに急遽変更。しかしそのあとロッセリーニの『防衛都市』を見て

「やはり私の目に狂いはなかった」

と言ったそうです。彼は今度こそ彼女を主役に据えました。

そして本当に彼女のための作品です。彼女の中にある"イタリア女性らしさ”を存分に引き出した作品といえます。

まず体型は立派な腰付き、胸をあわらに出した服装、大きな声、そして自己中心的だが人情味がある、主張が強く、男に負けない、弱く見せておいて男の上をゆく、そんな世間と戦う女性です。(『無防備都市』でもそんなアンナ・マニャーニを味わえます)。

本作では、馬鹿げた子役オーディション、そして芸能界という舞台に彼女は全力で振り回され、戦います。

娯楽映画を揶揄する映画

もうこの映画はネオレアリズモ映画とは言えないという人もいます。性格ががらっと変わったネオレアリズモ映画。しかし根本に流れているものは同じだと私は感じています。これはヴィスコンティがネオレアリズモの衰退をいち早くかぎ分け、その新しい姿を模索し始めた作品だと私は考えます。

ストーリーの舞台は皮肉にもチネチッタです。何が皮肉かというと、チネチッタはムッソリーニ政権下に建てられた映画撮影所で、イタリア映画だけでなくハリウッド映画も撮影されていたところです。そして言うまでもなく、舞台セットで人々が憧れるような幻想、まがいものを作り出す場所でありました。

このチネチッタを建設するためのロビー活動をしたのが、アレッサンドロ・ブラゼッティという映画監督です。彼はファシスト時代にファシズム映画を多く撮ったことで名を挙げた人です。彼はある意味で、1920年代の下火になっていたイタリア映画界復興の立役者であったと言えます。

そしてそのまさかのアレッサンドロ・ブラゼッティが、本作に出演しているのです。役どころは「Bellissima」というこの子役オーディションを審査する映画監督、その本人役です。

Bellissimaにて本人役のAlessandro Blasetti

ヴィスコンティはフランスなどを旅した際、左翼的思想に触発され、共産党を支持しており、映画制作の費用なども共産党から調達していました。

そのため、ムッソリーニに気に入られプロパガンダ映画を作っていたアレッサンドロ・ブラゼッティとヴィスコンティは、まさに相反するところにおり、彼らの間に個人的な交友があったとは考えにくいです。

どのような経緯で出演が実現したのか明確なところはわかりませんが、ヴィスコンティはブラゼッティを象徴として、娯楽・大衆映画を揶揄したかったのでしょう。こうしてみると非常にアイロニー溢れる映画です。

それでもマッダレーナは家の前で上映している野外映画を見て

「ああ、日常を忘れられる」

と目を輝かして言います。そしてバート・ランカスター(のちの『山猫』のサリーナ侯爵ですが)にうっとりします。日々お金がなくて常にギリギリの自転車操業で生活している人たち。貧困層の人々が、このような娯楽映画に人生の希望を見出していた、これもまた事実なのです

さいごに

いかがだったでしょうか。ヴィスコンティ映画のイメージを大きく覆された方もいらっしゃるかもしれません。私も彼の初期の頃の作品を後から見て、ますますヴィスコンティの世界にどっぷりとハマってしまった口です。

彼のネオレアリズモ映画は戦争を背後に感じるようなものは撮りませんでした。むしろ生涯、戦争場面を取り上げた映画はほとんど撮らず、戦時下に生きていたにもかかわらずそれを不自然にも避けているかのようでした。

それは彼が上流階級出身だからなのか、はたまた市民を戦争から遠ざけたかったからなのか、映画の娯楽の部分を残したかったからなのか、その意図するところは憶測の域を超えませんが、彼の眼によって写し取られたイタリア市民の姿を、デ・シーカやロッセリーニの作品と比較してもまた面白いかもしれません。


イタリア映画を観るには?

コロナ禍でイタリアに行けない中、文化を少しでも知りたいなら、イタリア映画を観るのが一番。

オススメは、全VODの中でイタリア映画の本数ナンバー1U-NEXTあらゆる時代の王道・イタリア映画を楽しめるAmazon プライム

U-NEXTは1,639円、Amazonプライムは500円ですが、どちらも登録から1か月は無料で体験可能です。個人的には、どちらも同時に加入して、使い勝手や自分のニーズに合っていれば継続利用、そうでなければ解約、という体験方法が一番良いでしょう!

U-NEXTで1か月無料体験!

AMAZONプライムで1か月無料体験!

使っているうちに初めて分かることもありますし、イタリア映画以外にも魅力的なコンテンツがどちらも揃っているため、きっとどちらかは使い続けたくなると思います。


イタリア映画 特集記事

・【随時更新】最新作・近日公開予定のイタリア映画・ドラマ一覧

・各VODサービスで観れるイタリア映画10選を徹底比較!

U-NEXTAmazon PrimeNetflix で観れる映画

・イタリアに行けない今...自宅でイタリアを楽しもう!

ローマフィレンツェヴェネツィアシチリア を舞台にした映画

・各イタリア映画のあらすじ・感想紹介

郵便配達は2度ベルを鳴らす』(1942)/『無防備都市』(1945)/『戦火のかなた』(1946)/『揺れる大地』(1948)/『アモーレ』(1948)/『ストロンボリ、神の土地』(1950)/『ベリッシマ』(1951)/『ウンベルトD』(1952)/『カビリアの夜』(1957)/『アッカットーネ』(1961)/『輝ける青春』(2003)/『人生、ここにあり!』(2008)/『暗黒街』(2015)/『おとなの事情』(2016)/『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』(2017)/『LORO 欲望のイタリア』(2018)/『シチリアーノ 裏切りの美学』(2019)

イタリア映画を観るには?

コロナ禍でイタリアに行けない中、文化を少しでも知りたいなら、イタリア映画を観るのが一番。

オススメは、全VODの中でイタリア映画の本数ナンバー1U-NEXTあらゆる時代の王道・イタリア映画を楽しめるAmazon プライム

U-NEXTは1,639円、Amazonプライムは500円ですが、どちらも登録から1か月は無料で体験可能です。個人的には、どちらも同時に加入して、使い勝手や自分のニーズに合っていれば継続利用、そうでなければ解約、という体験方法が一番良いでしょう!

U-NEXTで1か月無料体験!

AMAZONプライムで1か月無料体験!

使っているうちに初めて分かることもありますし、イタリア映画以外にも魅力的なコンテンツがどちらも揃っているため、きっとどちらかは使い続けたくなると思います。

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

Sayo

イタリア人の夫と息子と東京暮らし。日本にいながらもイタリアの食卓を再現したくて研究中。またイタリアの小説や映画を日本にもっと普及できればと、日々記事を書いています。

-映画・ドラマ・番組
-, , , , , ,