イタリア映画祭2020 女優特集:女性の憧れアルバ・ロルヴァルケル その2

イタリア映画祭2020 女優特集:女性の憧れアルバ・ロルヴァルケル その2

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イタリア人の夫と息子と東京暮らし。日本にいながらもイタリアの食卓を再現したくて研究中。またイタリアの小説や映画を日本にもっと普及できればと、日々記事を書いています。

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イタリア映画祭2020もラストスパート!12月20日まで!今後お目にかかることができないかもしれない作品たち、今のうちに見ておきましょう。

前記事にて引き続き、アルバ・ロルヴァルケル特集をしています。前回は『私のママでいる』という、たった12分の短編作品を紹介させていただきました。

今回はいよいよ長編の3作品を紹介させていただければと思います。

イタリア映画祭2020で見逃せないロルヴァルケル出演作品

ルチアの恩寵(原題:Troppa grazia)2018年

あらすじ

ルチアはシングルマザーで女手一つで娘を育てている。仕事は測量技師だが仕事にありつくのに苦労しており、また長年ともにしている恋人とも大げんかして別れてしまった。ルチアは生きるのに必死で、そして誰から見ても恵まれていない女性であった。

ある日突然大規模な開発の仕事を依頼され、測量を始めるが、そんな彼女の目の前に自分は聖母マリアだと名のる女性が現れる・・・。

解説

この映画はなんというジャンルに当て嵌めればいいのでしょう。社会派映画であり、コメディであり、ファンタジーでもあり、けれどなんというか、作品を纏う雰囲気がかなり独特なのです。

このジャンニ・ザナージ監督は作品数は少ないですが、どれもコメディタッチの映画で、その中でもこれはかなり異色を放つもの、方向性がシュールでブラックに傾きすぎてどこで笑うべきか迷ってしまう作品です(映画館で見るならなおさら周りを気にしてしまうかも)。

不思議な感覚を観客に持たせながら物語は進みますが、いろいろなシーンで含みがあり、様々な解釈が考えられる、映画としては深みのある作品となりました。

社会問題としてとりあげられているのは、まずはイタリアでは必ずついてまわる、就職難問題。就職率の低さは70年代からイタリアはずっと変っていないようです。そして女性の貧困。イタリアはカソリックの戒律が厳しいことで、結婚しないカップルも多いというのも原因の一つかもしれないです。そして過度な都市開発と違法建築。

社会問題としてはどれもわりと古典的で、ストーリーとしても、搾取される側は悪の根幹に立ち向かっていくという単純なものです。しかしストーリー中、とどのつまり誰が悪いのかは分からなくなってきます。これを土地開発者のジュゼッペ・バティストンが巧みに演じています。

大きすぎる社会問題はとくに、誰もが誰かのために良きと思い働いているので、軌道修正をしにくいのが世の常といえるでしょう。そのため主人公はある行動に出ます。

主人公に啓示をするのが聖母マリア。偶像化されていないものが、聖書をベースにした映画以外に出てくるのは大変珍しいのではないでしょうか。イタリア映画ではかなり実験的だと思います。

さらには聖母マリアは最初はホラーっぽく現れ、だんだんとシュールなコメディタッチなキャラクター像になっていくのです。一見カソリックを小馬鹿にしているような表現ですので、笑いがどっと起きる感じもせず、間が独特です。

監督はいかにも音楽好きな感じで、途中少々わざとらしいぐらいの演出になっているときもありますが、90年代テクノのような音楽をシーンの雰囲気と全然合わないにもかかわらず使ったり、独特な感性の持ち主であるという印象です。これが表と出るか裏とでるか、みなさんはどう思われるでしょう。

司令官とコウノトリ(原題:Il comandante e la cicogna)2012年

あらすじ

芸術家のディアーナはギャラリーに展示した作品がまったく売れず、バイト先でも給料を踏み倒され、貧苦にあえいで途方に暮れている。一方水道屋のレオは、娘と息子を男手一つで育てていて、これまた生活苦と娘たちの教育方法に迷い、困り果てている。そんなある日娘は元彼からリベンジポルノの被害を受けてしまう・・・。

解説

ヴァレリオ・マスタンドレア、ジュゼッペ・バティストン、アルバ・ロルヴァルケルそしてシルヴィオ・ソルディーニ監督という、このメンツだけで惹かれてしまう映画。

シルヴィオ・ソルディーニのポップな要素が漂う映画です。ロルヴァルケルが演じる女性がアーティストであることもあり、シーン割りが可愛く編集されていたりします。おそらく登場人物はみな不景気のさなか貧しく生きている人たちなので、彼らの生活の厳しさが悲しくなるぐらい前面に出るのを和らげるために、少し寓話的に演出されています。

またしてもジュゼッペ・バティストンか、と口からこぼれてしまうぐらい、(イタリア映画祭を毎日みていると毎日スクリーンにお目見えします)イタリア映画で知的だけど胡散臭い人を演じさせたら、今この人の右に出る物はいないのでしょう。イタリア人なのか疑ってしまうほどわざと変ななまりで話したり、とにかく言語おたくの家賃収入のみで生きる偏屈な中年男を、絶妙な間の取り方の台詞まわしで演じ、映画全体を軽妙なシュールさで包んでいます。

 

何より面白いのは、この映画の登場人物の一人がガリバルディなのです。そう、あのイタリア統一をしたジュゼッペ・ガリバルディ。この映画、実は舞台がトリノで、トリノの広場に堂々と立つガリバルディ像が話しだします。彼は街にいるイタリア人たちの自己中心的な態度、彼らが起こす犯罪、倫理観を疑うような行動をみて憂います。

「私はイタリア王国を創りだして本当に良かったのだろうか。」と。

そんな中、この犯罪が当たり前に起こるようなこの街で、苦しみながらもまっすぐに、自分に正直に生きている人たちをフォーカスし、この物語は始まるのです。

一見ばらばらに存在する人たちが、やがて引力にひかれるように混じり合っていく様子や、登場人物の設定がだんだんと解き明かされていく様子は見ていて飽きません。コメディタッチですが、社会問題も考えさせられて、またイタリア統一の歴史を紐解きたくなるような作品かもしれません。ちなみに、レオパルディやダヴィンチもでてきますよ。

処女の誓い(原題:Vergine giurata)2015年

あらすじ

舞台はアルバニア北部の村。女性の権利が厳しく制限されているこの村で、あるハナとリラという姉妹がいた。2人ともこの閉鎖的な村に辟易していたが、とくにハナは活発で馬や銃など父親のすることをしたがったが禁じられた。

彼女は伝統的な掟に従って終生処女のまま、マルクという名の男として生きることを誓う。リラは男と駆け落ちすることで村を出てイタリアへ。

だが、ハナは成長するにつれてもともとの女性としての抑えきれない感情が生まれ、リラのいるイタリアに旅立つ。

解説

ローマ サピエンツァ大学で映画の学士を取得したラウラ・ビスプリの長編デビュー作。彼女の映画は他には見たことありませんが、この映画には使命感の強さが伝わってきます。そして映像美(撮影はあのダヴィット・ディ・ドナテッロ最優秀撮影賞を受賞履歴があるヴラタン・ラドヴィッチ)とこの瑞々しいロルヴァルケルの何とも言えない到達感。

こんな国がヨーロッパにもあるのかと驚かされます。EU加盟国です。女性が外に出て活動をしてはいけないなんて村があるのです。そしてハナは決して例外的な人物ではなく、この村には他にも家族のために男性として生きる選択をする女性もいるのです。

そもそもイタリア映画だと思ってみたのにアルバニア?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、アルバニアはイタリアのかかとの部分、プーリア州に非常に近く、海を挟んでたったの72km、イタリアへの移民もとても多く、労働者としてイタリア国内の農業などを支えてくれています。

これは実際にアルバニア人で在米の作家エルヴィラ・ドレスが書いた『Vergine Giurata』という小説をベースにした話で、監督は「独創性が強く、世界にあまり知られていない方法で語られるこの物語は私に多くの可能性を与えた」とインタビューで答えています。こんな表現で語られると小説も読みたくなってきますね。

女性と男性の境界線を越え、アルバニアから国境を越え、様々なボーダーラインと、その境目に立ち止まることを考えさせてくれる貴重な映画です。

さいごに

いかがだったでしょうか。この映画祭を機にアルバ・ロルヴァルケルという女優を知っていただけたら幸いです。

本当はイタリア映画祭2020の中に、他にも秀作がたくさんあるのでおすすめしたかったのですが、それはまたの機会にできたらとおもいます。この中の映画ができるだけ多く、引き続き日本で配給されることを願って。

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コロナ禍でイタリアに行けない中、文化を少しでも知りたいなら、イタリア映画を観るのが一番。

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使っているうちに初めて分かることもありますし、イタリア映画以外にも魅力的なコンテンツがどちらも揃っているため、きっとどちらかは使い続けたくなると思います。

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