イタリア映画祭2020迷ったらこれ!オズペテク監督作品の見方【後編】

イタリア映画祭2020迷ったらこれ!オズペテク監督作品の見方【後編】

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イタリア人の夫と息子と東京暮らし。日本にいながらもイタリアの食卓を再現したくて研究中。またイタリアの小説や映画を日本にもっと普及できればと、日々記事を書いています。

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前回の記事では、オズペテク映画を見るにあたっての基礎知識篇として、オズペテク監督という人、またLGBTにまつわるイタリアの状況について触れさせていただきました。

今回の記事では映画の内容に焦点をあてます。今回のイタリア映画祭にて見比べて欲しいオズペテク映画2作、新作『幸運の女神』そして旧作『無邪気な妖精たち』の、まずはあらすじから見てみましょう。

あらかじめ言っておくと、ネタばれはしないようにしますが、特に「解説」パートは、映画を見てから読むというのも違った楽しみ方ができるかもしれません。

あらすじ

『幸運の女神(原題:La dea fortuna)』(2019)

15年以上付き合い同棲しているが、倦怠期を迎えているゲイカップル、アレッサンドロ(エドアルド・レオ)とアルトゥーロ(ステファノ・アッコルシ)。彼らのもとに、親友のシングルマザーであるアンナマリア(ジャスミン・トリンカ)が2人の子どもを連れてやってくる。

数日間検査入院をしなければいけないため、子どもたちの面倒を見て欲しいと彼女はいう。病気の詳細はあまり明かしてくれないが、アルトゥーロにアレッサンドロを紹介してくれた大切な親友の頼みであるため、特にアルトゥーロは渋々だったが、2人とも承諾した。

子どもの世話を見始めたことで、2人はお互いの不満がさらに爆発。関係はどんどんと悪化していった。とうとう彼らは別れることになり、子どもの面倒はこれ以上見れないとアンナマリアに断りにいく。

『無邪気な妖精たち(原題:Le fate ignoranti)』(2001)

AIDSを専門とする医者のアントニア(マルゲリータ・ブイ)。川沿いの素敵な豪邸で夫とは長い付き合いでありながらもラブラブで、相思相愛の関係であった。そこに突然、夫が自動車事故で急死してしまう。

悲しみに暮れながら夫の遺品を整理していると、ある大きな絵の裏に恋文のようなものが書かれているのを発見。「7年間私は我慢していた」との言葉。夫には隠れた愛人がいたようだった。

愛人の気配が全く無かった生前の夫の様子から、その事実が信じられなく、とにかく真相を知りたい気持ちで、アントニアは夫の愛人を捜し始める。住所を特定し、赴いた先はLGBTの人々ばかりが集う異質なアパート。そして夫の愛人は男だった。

アントニアは愛する夫の秘めた一面をとにかく追求したい思いで、その元愛人ミケーレ(ステファノ・アッコルシ)とその周りの異空間に躊躇いながらも接近し、交友を深めていく。

解説

2作の共通点

酷似している2作品のキャラクター設定

本2作品の間には約20年ものの隔たりがありますが、それぞれの登場人物の構図・設定は非常に似ています。まずは、2作ともゲイカップルのもとに家族を持つ(または家族を持っていた)異性愛者の女性が突然舞い込んできます。

そしてその同性愛者と異性愛者の間に「愛」が生まれます。それは恋愛のような「愛」なのか、家族「愛」なのか、慈「愛」なのか・・・それはわかりません。ただひとつ言えることは、どんな愛の形があってもいいのではないか、ということ。オズペテク監督は、それらの愛を社会として認める心を持とうと投げかけているようです。それは至ってシンプルな問いかけです。

しかしそのシンプルな問いかけをがんじがらめにするのは、法律や社会的差別です。例えば男2人で子どもを育てることは法律上認められるのでしょうか。養子縁組は認められていないけれども、親権を肉親が譲れば成り立つのでしょうか。

同じようなキャラクター設定ですが、周辺環境はこの約20年でだいぶ変りました。2000年は、世界的に有名なLGBTパレード「世界プライド・パレード」が初めてローマで行われるという画期的な出来事がありました。『無邪気な妖精たち』の登場人物たちも張りきってパレードのプラカードを映画中に作っています。当時、実際に俳優陣はこのプラカードを持ってプライド・パレードに参加しました(参加した様子がエンディングで流れています)。

前記事で触れたように2000年には同性カップル法は存在せず、権利は何も認められていませんでした。デモ運動は度々国内で行われていましたが、世界規模のパレードがローマで行われたのは初めてで、世界中の人々が集まり、イタリアの現状が注目されました。

一方2019年『幸運の女神』では、ゲイカップルの結婚式からオープニングが始まります。前記事の通り、2016年には同性カップル法が成立、同性の結婚が認められるようになりました。新郎2人を象った人形が立てられたウェディングケーキとともに20年前よりもどこかオープンな雰囲気のLGBTの人々が幸せそうに映っています。

『無邪気な妖精たち』にはまだLGBTの人々のカミングアウト問題「家族に嘘をつくか否か、自分に嘘をつくか否か。」というテーマが根底にある一方、新作の方はそういう自問自答をする人々はあまり描写されておりません。

他にもこの両作の女性像にはいろいろ共通点があるのですが、ここでは語らないことにいたしましょう。

住まう町の共通点:LGBTコミュニティの巣窟、近所のPasticceria

この2作品は撮影場所も似せようとしていました。2作ともLGBTコミュニティと呼べるようなアパート、あるいは町に住んでいる設定です。

『無邪気な妖精たち』の時は驚くべきことに、オズペテク監督の住まいを撮影場所として使用していました。暗くて古くて細ーい階段、小さなエレベーターを抜けると、入り口からは想像つかないような、広々とした素敵な空間が表れることは、イタリアではよくあることです。このアパートも入ってみると、天井も意外に高く、大きなテラスがある風通しのいい素敵な部屋が現れます。

このアパートは懐かしの、そしていまだに憧れの場所だったようで、オズペテク監督は今回似たような物件を探したと言います(結局撮影した場所はquartiere Nomentanoでした。)

そして近所にはオズペテク監督が愛するPasticceria(和訳としてはケーキ屋さんでしょうか。日本だとフランス風のパティスリーの呼び方の方が普及してますね。)Andreottiがあります。両作品ともタムロする場所は決まってこのPasticceriaです。オズペテクは超のつく甘党男。彼の作品にはたくさんのDolciが登場します。これらはすべてAndreottiの協力を得ているようです。代表的なのは『向かいの窓』『明日のパスタはアルデンテ』でしょうか。

『向かいの窓』マッシモ・ジロッティの遺作となりました。

ステファノ・アッコルシがつなぐ両作品

『無邪気な妖精たち』を見てから『幸運の女神』を見ると、20年のときを経てステファノ・アッコルシも良い意味でも悪い意味でも中年男になったなという印象を受けます。それだけ2001年の彼は瑞々しかった。きらきらしています。そして繊細できれいな手をしていました。確かにこれなら異性愛者として満足に生きていた男が、同性愛にも目覚めるな、と思わせるような美男子です。オズペテクは同性愛者でない俳優をよく同性愛者として演じさせるのですが、さすがオズペテクの千里眼と演出力は凄まじいものです。

両者のキャラクター設定はまったく違うのですが、『幸運の女神』では、若い頃にいろいろあって一波越えた達観したようで、後退しているようなその後のミケーレを見ているようにも見えてきて、やはり連作感があります。中年男特有の夫婦の倦怠期感を出せたのは、このギャップがあってのことではないでしょうか。

『無邪気な妖精たち』のアッコルシ

俳優の話として特筆すべきは、やはりジャスミン・トリンカです。彼女はデビュー時ナンニ・モレッティの『息子の部屋』でいきなりゴールデン・グローブ賞新人最優秀女優賞を受賞、まだその時は考古学を学ぶ大学生でした。

彼女も意外にカメレオン女優で映画によって本当に変化が激しく、毎回迫真の演技を見せてくれます。いい熟し方をしている女優です。今回の作品でも再びダヴィッド・ディ・ドナテッロ主演女優賞とナストロ・ダルジェント主演女優賞を受賞しました。

トリンカとオズペテク監督

さいごに

この両作品はまだまだ紹介したいことがありますが、この辺りで終わりとさせていただきます。

しかしさいごに是非とも紹介させてほしい歌があります。「Vent'anni」です(リンク先You tube)。

もともとは映画『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』で使われていたスペイン語の曲です。これをIsaac e Noraという子どもの兄妹が歌っているものが『幸運の女神』の挿入歌として使われています。

この子たちはYou tuberなんでしょうか。そして彼らをオズペテク監督はYou tubeから探し当てたのでしょうか。詳細は定かでないですが、瑞々しいそして子どもらしい声に渋いトランペットがのって、そして無邪気な笑顔、オズペテクは彼らに惚れてしまったに違いありません。

そして「Vent'anni」(和訳:20年)にオズペテク監督が込めた思いは・・・?この曲が映画中に流れてきた瞬間、私は『無邪気な妖精たち』と『幸運の女神』の監督の試みに確信を得たのでした。


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