<お正月イタリア映画特集>年末年始にはこれがおすすめ!『輝ける青春』(後編)

<お正月イタリア映画特集>年末年始にはこれがおすすめ!『輝ける青春』(後編)

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イタリア人の夫と息子と東京暮らし。日本にいながらもイタリアの食卓を再現したくて研究中。またイタリアの小説や映画を日本にもっと普及できればと、日々記事を書いています。

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前回は『輝ける青春』の概要、あらすじを紹介させていただきましたが、今回は『輝ける青春』のストーリーを追いながら、当時のイタリアの歴史背景、社会情勢などを触れていきたいと思っています。

<お正月イタリア映画特集>年末年始にはこれがおすすめ!『輝ける青春』(前編)

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またCapodanno、年末年始の過ごし方にも触れていきます。ストーリー自体はなるべく触れずに、あくまでこの映画を見るにあたって、知っておくとより映画が楽しくなる予備知識を皆さんにお伝えしていきます。

『輝ける青春』から見えるイタリア

イタリアの大学と、男子の兵役制度

ローマ生まれローマ育ちのニコッラとマッテオは親元からローマ大学に通っています。しかしその後、トリノ大学に通うジュリアに一目惚れしたニコッラは「トリノ大学に行こうぜ」と親友を誘って、本当にトリノへ移ってしまいます。日本だと信じられないこの身軽さ。それは根本的に日本とは違うイタリアの大学制度が理由にあります。

イタリアではまず入試のハードルがそこまで高くないということがあります。(ここはどれぐらいハードルが低いのか聞く)そして入学金なども安く、授業料も安いです。

ユニークなのは、世帯の収入で授業料が変わります(ISEEという制度)。日本の認可保育園と同様ですね。しかしイタリアの大学の授業料は、世帯収入が一番上のランクだとしても金額はたかが知れているようです。もちろん学部などにより値段は異なりますが、例えば公立のベーシックな学部であれば年間900€、高くても4000€です。

日本の大学と比較すると驚きの数字ではないでしょうか。イタリアはどんな家庭の経済状況であっても、誰もが平等に学問を志せる、そんな環境が整えられているようです。

一方マッテオは大学をやめて突然兵役を受けることにします。イタリアは1861年〜2004年まで兵役義務があり、ただし大学に通っている間は免除されたそうです。ずいぶん最近まで義務化されていたのですね。

そしてやはり国は学問を優先させてくれるスタンスではあったようです。しかし大学を卒業後、結局は兵役に行かなければならないことに、社会人になるまで時間がかかりすぎると批判が集まった末、兵役制度はついに廃止されました。

イタリアの結婚制度

マッテオの父アンジェロが新ビジネス立ち上げのための資金作りのため、家を抵当に入れてしまいました。それを無断で決めてしまったので、さあ、大変。妻のアドリアーナはカンカンに怒ります。夫婦喧嘩を止めに入るマッテオとその妹フランチェスカ。最後にアドリアーナはこう捨て台詞を吐きます。「離婚制度が無いことが残念だわ。」すると、まだ幼子のフランチェスカが言います。「ママ、アメリカの女の人みたい!」

そう、カトリック国イタリアは当時まだ離婚が制度的に認められていませんでした。1970年から離婚が認められるようになりましたが、それでも離婚がしづらい国としていまだに有名です。

日本のように離婚届ペラ一枚の紙を市役所に出すだけではなく、今でも必ず裁判所を通して法定離婚を認められ、かつその後宗教離婚の手続きも取らなければ正式な離婚はできません。しかも、半年間別居をしたことを証明しないと、法廷離婚手続きさえもできないのです(2015年までは3年間も別居しなければならなかったそうです)。

別居中も夫婦のどちらかが生活ができないような状況であれば、経済的余裕のある方が経済支援を行う義務があります。大抵は夫が妻に対して経済的支援を行うことが多いので、男の人の方が余計結婚を嫌がったりします。とにかく弁護士費用やら別居費用やらお金がかかります。この結婚制度が嫌で、もしくは制度に異議を唱える意思表示として、パートナーのまま居続けるイタリア人はたくさんいます。

話は少しずれますが、カトリック思想が強いことから、同性愛者も今以上に風当たりが強く、多くの人からは病気だと思われていた節もあるようです(映画中、父アンジェロもそのような発言しています)。

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ここは私の憶測の域を超えませんが、マッテオはバイセクシャル、もしくはアセクシャルであったと思います。あまり明確な描写は無いにしても、彼はそのことをずっと思い悩んでいたように見えます。若い頃もあまり女の子と積極的に遊ばない、その一方で娼婦、性転換売春婦、AV映像などの刺激は求めてみるものの、自分自身の反応はいまいち。心から楽しめない。なのに外見は2枚目色男ときたものだから、世間的な自分と内なる自分とのギャップにも思い悩んでいたに違いありません。

フィレンツェの大洪水

1966年のフィレンツェの大洪水を皆さんご存知でしょうか。歴史的にも重要な資料、美術品が多く集まるフィレンツェでの被害は世界中を悲しませました。11月3日から18時間雨が降り続き、4日朝にアルノ河が決壊して水位は5mにも達し、34人が亡くなったそうです。

中央図書館はトリノ中央図書館火災を教訓としてアルノ川に建てたとかで、対策が裏目に出てしまい、建物が浸水、400万冊の本が被害を受けました。そしてウフィッツィ美術館の被害。洪水後、ウフィッツィは2階以上に重要な美術品を展示するようになったそうです。

この大災害の時に世界中から若者がボランティアとして集まり、浸水した美術品や資料をたくさん救い出しました。泥の天使」と呼ばれた世界中から集まったボランティアの若者たち、そしてイタリアを救おうと立ち上がったイタリア人たちを見て、イタリアもまだまだ捨てたもんじゃ無いぞ、と思わせます。

バザーリア法

この物語の肝ともいえるバザーリア法に触れなくてはなりません。この法律はイタリアで1978年に成立した世界初の精神科病院廃絶法です。精神科病院を最初に唱えたフランコ・バザーリアから由来しています。これによって公立精神病院、精神科はすべて廃止、患者は町に出て、グループホームや自宅、通院などによってケアを受けることになりました。

1966年マッテオはバイト先の精神病院にて、電気ショックで虐待を受けている少女ジョルジャに出会います。当時イタリアではまだ電気ショック療法が認められていました。その後それをきっかけにニコッラは精神科医になります。1974年ニコッラは精神病院での虐待を告発し、院長・経営者を相手に勝訴します。その後、数々の精神病院で行われている悪しき慣習や患者にとって劣悪な環境を警察とともに暴いていきます。ニコッラはいいます。

「精神病院にいるから患者は精神病になるんだ。外に出ないと」

バザーリア法はまさにその精神です。映画『人生ここにあり!(原題:Si puo fare)』やパオロ・ヴィルツィ監督の『歓びのトスカーナ(原題:La pazza gioia)』などを見れば、”精神病患者”として扱われていない彼らが社会に成り立っていることが我々にも理解できると思います。

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『赤い旅団』学生運動の激化からテロの時代へ

トリノ大学に再入学したニコッラは、恋人のジュリアと友人たちと学生運動に傾倒していきます。子どもができてからニコッラはその熱が冷めるものの、ジュリアはそのまま仲間を増やしていき、「赤い旅団」の活動に従事するようになります。

日本人としては日本赤軍などでなじみがあるのではないでしょうか、イタリアの「赤い旅団(Le Brigate Rosse)」は1969年に結成された極左テロ組織です。イタリアでの革命や西欧同盟離脱を主張していて、いわゆる権力者たち(政治家、裁判官、警察官、実業家、ジャーナリスト)などを誘拐、殺人を繰り返しました。

もともとは若年層の高い失業率や挙国一致体制(いわゆる大連立内閣、イタリアは今でも結構多いですね)への不満などを背景に勢力拡大を狙っていましたが、労働者からの支持が得られず次第に過激な武力闘争に傾斜するようになってしまいました。

世界的に注目を浴びたのは1978年の「モーロ元首相誘拐殺人事件」です。当時首相のジュリオ・アンドレオッティ首相に対し、赤い旅団の逮捕者解放の要求をするために行われた誘拐で、イタリア政界上層部、そしてローマ教皇ともモーロが手紙でやり取りをし交渉を続けましたが、結局要求がアンドレオッティ内閣に拒否されたためにモーロは射殺されました。

赤い旅団についてはこちらでも!
イタリアにもテロの時代があった。極左組織「赤い旅団」の恐怖に迫る。

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この事件はアメリカCIAなどを含む多くの関係者の画策があったようで、今だ謎が多い事件です。詳しくはマルコ・ヴェロッキオ監督の『夜よ、こんにちは(原題:Buongiorno, Notte)』(2003)に描かれているので併せてみて見ると面白いと思います。

またモーロ元首相は監禁中に書いた手紙の中に「アンドレオッティは悪事を行うために生まれてきた男」と書いています。そのジュリオ・アンドレオッティに関してはPIFが監督の『マフィアは夏にしかやらない(原題:La maffia uccide solo d'estate)』(2013)、パオロ・ソレンティーノ監督の『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男 (原題:Il divo)』(2008)を見てみるとどういう人物だったのか、この事件の闇が見えてくると思います。

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イタリア流 年末、正月(Capodanno)の過ごし方

イタリア人の年末の過ごし方は、家族大人数で集まって、よなよなゲームをしながら日付が変わるのを待ち、0時を迎えたらスプマンテを開けて、花火を見るというのが一般的ではないでしょうか。まさにそんな描写がこの映画の中には登場します(ここは映画のクライマックスでもあります)。この時、この時期に行う典型的なボードゲームを家族みんなでわいわいやっています。それは「Mercante in fiera(市場の商人)」です。

起源はなんと5世紀!のとても古典的な、そして子どもから大人まで楽しめるとてもベーシックなゲームで、特に決まった人数はなく何人でも参加できます。参加者が多ければ多いほど面白みが増すゲームですので、家族、親戚が集まる口実にぴったりではないでしょうか。また少額ですがお金を賭けるというところも人気のポイントなのかもしれません。

ルールを少しだけ説明すると、まずは1人競売人を選出します。この人が基本的にゲームを進行するので、誰がなるかによってゲームの雰囲気が変ります。面白可笑しく進められる、能弁家、エンターテイナーのような人がなることが多いのではないでしょうか(決まってこの人がやる、というのが家族ごとであるようです)。

カードの束をみんなの真ん中に2つの束で置き、一つの束の3/4ぐらい残し均等に参加者に配ります。カードにはいろいろな物の名前と絵が描かれています(例えば、Pera, Patata, Bollito...等)

競売人の呼びかけとともに、競り売りが始まります。束に残っているカードを売り買いして、競売人は3-6枚の高価なカードを隠してとっておきます。これらは最後に公表するのですが、この高価なカードを持っていた人は分かったときに「Viva la fiera!」と叫びます。最終的には自分の所持金が高かった人が優勝ですが、この言葉を叫んだらもう勝ったも当然です。

さいごに

とにかく情報量が膨大な作品なので書ききれないところはありましたが、この映画は本当にイタリアのいろいろな社会情勢、制度、習慣などが読み取れる資料としても大変興味深い作品で、イタリアの面白さにますます近づけるものだと思います。

長いのですが、ストーリー展開に眼が離せなくて、連続ドラマをみているような、本当にあっという間の366分ですよ。イタリア好きの方には必見だと思います。

映画情報

・制作年:2003

・制作国:イタリア

・監督:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ(Marco Tullio Giordana)

・出演: ルイジ・ロ・カーショ(Luigi Lo Cascio)、アレッシオ・ボーニ(Alessio Boni)、ジャスミン・トリンカ(Jasmine Trinca)、ソフィア・ベルガマスコ(Sonia Bergamasco)、リッカルド・スカマルチョ(Riccardo Scamarcio)

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